《蛍の群れ》 #01_一目惚れ:18 目に浮かぶわ、なんて言いながら、まだ手に持っていたエナメルの瓶を、サイドテーブルに置く。 「今度臣人に逢うとき、さっきの、言ってあげなさいよ」 「――なっ、無理無理無理無理無理! いいい言えないよ!」 目の前でブンブンと手を振ると、ついでに首も左右に動いてしまう。 「言えない?」 「…、恥ずかしいじゃない」 「どうして恥ずかしいの?」 「や、だっ…て、そんな言い方したら、何だかあたしが望月さん…を……? あれ?」 ベッドの上で、ひとり悶々としていたときに、チラリと頭をもたげた感覚が、あらためてあたしの中を走り抜ける。 「ね」 でしょ、って、あーちゃんの顔。 「何で? 会ったばっかだし、ちゃんと話したのだって今日が初めてで、」 「時間は関係ないんだよ。そういうのは理屈じゃないから」 「…あーちゃんも、あるの? そういうこと」 「そりゃまぁ、それなりにね」 あたしの気持ちなのに、あたしに黙って勝手に暴走してしまう。 きゅうきゅう締め付けられっぱなしで、今日は胸が痛い。 ――一目惚れ、って、信用できる? 大人って、そういうものなんだろうか。 だとしたら。 あたしも、大人の仲間入りができるのかな。 結局、夜のうちにメールを返すことができなくて。 朝の電車の中、悩んだわりにたいしたことのない返事を送った。 ========== from:林田未来 おはようございます。 昨日、家まで送ってくれて ありがとうございました。 また、お店に行きますね。 ========== [*]prev | next[#] book_top |