《蛍の群れ》
#02_ヤキモチの正体:01



「嬉しかったな、未来ちゃんからのメール」


 望月さんは満面の笑みを浮かべて、コーヒーカップを静かに傾ける。

 たいした内容のメールじゃなかったのに、そんなに喜ばれてしまうと、送り直したくなってしまう。


 あーちゃんに相談した次の日の朝、電車の中からメールを送信したあと、何度か望月さんからメールがくるようになった。

 他愛のない話題で、ポツポツとやり取りを毎日続け、逢いたい、と、一言だけのメールが届いて、あたしには断る理由が見つからなくて。

 今日、こうして一緒に食事をしている。


 ――臣人に逢ったら、さっきの、言ってあげなさいよ


 あーちゃんに言われた台詞が頭から離れない。

 望月さんのお話は退屈しないし、むしろ一緒にいて楽しいのだけど。

 心のどこかが、少しだけ、上の空になってしまう。


「未来ちゃん?」

「――は、はいっ」

「…出ようか」


 あ、どうしよう。

 望月さんの声色に寂しさを感じて、ハッとする。

 退屈していると思われただろうか。

 あぁ、またモヤモヤする。



「少し歩こうか」


 さりげなく差し出された左手を、あたしは躊躇いもせずに取る。

 ホッと安堵したような軽い吐息が、望月さんの表情を和らげた。


「おかしいかな」


 前を向いたまま、望月さんがポツリと漏らす。


「未来ちゃんからみたら、俺なんかはもうおじさんだろ。…そんなおじさんが、未来ちゃんを彼女にしたい、だなんて、やっぱりおかしいかな」


 昨日の雨が大気を洗い流したおかげで、空気がやけにすっきりしている。

 もうすぐ夏になる前の、そわそわした気配が、街を包んでいた。




- 19 -



[*]prev | next[#]
book_top



bookmark
page total: 69


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.