▼ 山田くんと松山くんの恋模様 4
夏。
「助けて松山〜!!!!」
テスト一週間前の放課後。
俺は山田に泣きつかれていた。
「そんなにやばいのか?」
俺のブレザーを掴み、俯いてる山田に尋ねる。
「え......と......。」
「?」
「......中間ね、全教科赤点だった...。」
言うのが躊躇われたのか、少しの沈黙の後山田がそう答える。バカだとは前から思っていたが、ここまでだったとは。
少し呆れるが、惚れた弱みだ。しょうがない。
「はぁ。とりあえず、簡単にやるぞ。」
「松山〜!!!!」
俺は山田のキラキラした目に弱いと思う。
席に座り、山田と机を向かい合わせにする。
教室には誰もいなくなっていた。
「とりあえず暗記すれば大丈夫な日本史からやろう。」
緊張で、少し声が震えた。
「疲れた〜!!!!」
それから小一時間。
「お疲れ。」
机に突っ伏した山田の頭をぽんぽんと撫でる。男の頭を撫でるなんて変に思われるだろうか。撫でた後にそんなことに気付き、少し後悔する。
「ねぇ、松山。」
山田が顔をあげる。
何か文句を言われるのだろうか。
「何?」
「あのね、俺がテストで頑張れたら、地元の夏祭り、あれ一緒に行きたい。」
山田の口から飛び出したのは予想もしない言葉。
「何で、俺?」
山田には友達がたくさんいる。山田に恋してる女の子の噂だっていっぱい聞いた。きっと、色んな人に誘われてるだろうに。
「何で?」
理由が聞きたい。
嬉しさと少しの不安が混じり合って心臓がどくどく音を立てる。
「あのね、もっと松山と仲良くなりたい。松山のこと知りたい。思い出つくりたい。2人でどこか行ってみたいってずっと思ってる。」
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
顔も耳も首もどこもかしこも熱い。
にやけた顔を見られたくなくて、山田から顔を背けた
「松山耳赤すぎ!!!ちょっと!!なんでそんな照れてんの!!!やめてよ、俺までなんか照れちゃうじゃん...。」
チラリと目だけで山田の方を見ると、山田は再び机に伏せっていた。耳が赤い。
「ごめん。ねぇ山田、こっち見て。」
顔を山田の方に戻しそう言うと、顔をあげた彼と目が合った。
「俺も山田のこともっと知りたいし思い出作りたい。......誘ってくれてありがとう。夏祭り、たのしみにしてる。」
「......!!!松山!!わら、笑っ!!!!」
知らぬうちに顔が綻んでいたらしい。失礼な。俺だって笑う。
「でもその前にテストだな。」
「がんばる!がんばるよ俺!!!」
全部友達としてだってわかってる。でもすごく幸せで。
教室のカーテンが揺れ、2人しかいない教室に夏の風がふわりと舞い込んだ。
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