小説 | ナノ


▼ 山田くんと松山くんの恋模様 3

『迷惑なんだよ!!』

そう告げた日から、山田くんは俺に絡んでこなくなった

「じゃあ今から隣の席の人と話し合いなー。はい。」

今は現文の時間。意見を隣の席の人と話さなければならないらしい。

気まずい。

あれから山田くんとは一言も口をきいていない。

「松山くんはなんて考えた?」

どうしようかとぐるぐる考えていたら、山田くんの方から話しかけてきた。

「あ、俺は、こ、こう思った。」
「じゃあそれでいいね!!!」
「え、......。」

山田くんは会話を強引に切り上げると、頬杖をついて俺と反対側にある廊下の方を向いてしまった。

山田くんはいつもと変わらない笑顔を見せてきたけれど、今まではこんなにすぐ会話が終わることなんてなかった。ぐっと机の下で拳を握り締める。見てるだけでいい、話さなくてもいい、そう思ってたのに。





それから2週間ぐらい、山田くんと俺との距離はずっとそんな感じであった。山田くんは、笑顔こそ俺に見せるけれどどこか素っ気なくて。俺も自分から拒否したのに心がもやもやしてどうしようもなくて。ただ山田くんを眺める時間だけが増えていった。


そんなある日、朝早く駅に立っていると、向こうに山田くんの姿が見えた。

「え?」

最寄駅が同じなんて知らなかった。心臓がどくんと脈打つ。

「あ。」

山田くんがこっちを見た。はっきり、俺の姿を捉えた。しかしその目はすぐに逸らされる。まるで何も見ていなかったかのように。せめて笑ってくれるかもしれない、そう期待してしまった自分が恥ずかしい。


電車が来るまであと5分。


ずっとこのような関係が続くのだろうか。ただのクラスメイト、いや、それ以下の関係。せっかく同じクラスになれたのに。隣の席になれたのに。俺は臆病なままでいいのか。


電車が来るまであと3分


駆け出す。そして携帯を見ている山田の腕を掴む。

「あ、松山くんじゃん!おはよー!!」

他人行儀な笑顔。テンプレのような言葉。

「ごめん......やだ......。」

山田くんを見つめて、そして必死に言葉を絞り出す。心臓が緊張でうるさい。

「へ?」

困った顔で山田くんが笑う。

「ごめん...。」
「ごめんって...何が?」

いざ本人を目の前にすると、言葉が出てこない。言わなきゃいけないことはたくさんあるのに。
こんな状況なのに、山田くんと目が合ってるということが嬉しくて恥ずかしくてついまた目を逸らしてしまう。

「......。」


電車が来た。


「俺行っていい?」
「ま、待って!!!」

山田くんの腕を掴む手に力が入る。
予想以上に大きい声が出て、ホームにいる人たちが何事かとこっちを見た。

「松山、こっち見て?」

呼び捨て。
パッと顔を上げると、久しぶりに山田くんが、本当に優しい笑顔で笑っていた。

「俺ね、バカだから。ちゃんと言ってくれないとわかんない。ゆっくりでいいから、教えて?」

じわりと目に涙が滲む。けどここで泣いたらみっともない。ごくんと唾を飲み込み、決心を固める。

「......迷惑じゃないから、俺と話して。」

先程の「待って」とは打って変わって、小さくか細い声が飛び出る。

「声小さ!!!ほんと松山って面白いね!!!!!」
「......え?」

ケラケラと山田くんが大声で笑う。今シリアスな雰囲気だった筈なのに。
人の少ないホームに山田くんの笑い声が響く。

「松山最高!!」
「お前......。馬鹿にしてる?」
「違うよ!!迷惑って言われた時はほんとにちょっとショックだったよ!!!」
「それはごめん...。」
「だから謝らなくていいって!!」


次の電車まで15分。


「ねぇ松山、俺のことは山田でいいよ。」
「山田?」
「うん、そう。これからよろしくね!」

ニカッと笑う山田が眩しい。

「よろしくな。」

少しだけ、前に進めたような気がした。


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