▼ 山田くんと松山くんの恋模様 1
春。入学式。
「君の髪の毛めっちゃ綺麗だね〜!サラサラ!」
そう言って俺の髪に触れて笑う君に、俺は一瞬で恋に落ちた。
*
元々女の子には興味がもてなかった。好きになるのはいつも男性で、遠くから見てるだけだった。だから今回のこの恋も何も起こらずに終わると思っていたのに。つくづく神様は意地悪だ。
「うっわ!髪の毛めっちゃ綺麗!」
聞きなれた声。いつも見ていた人の声がする。声のした右側を見ると、想像していたその人が頬杖をついてこちらを見ていた。
「ははは〜!そんな睨まないでよ。俺山田チアキ。3年になって知らない人と隣とか嬉しい!仲良くしてね。よろしく〜!」
「松山朝陽。よろしく。」
山田・アンソニー・チアキ。俺の1年の頃からの想い人。
3年になって同じクラスになっていたのは知っていたけど、まさかこのタイミングで隣になるなんて思ってもいなかった。
あまりの緊張に、自分の名を名乗る声が震える。知ってたけど、知ってたけど、かっこよすぎて顔面を直視できない。耐えきれなくて視線を逸らすと、横からブハッと大きな笑い声が聞こえてきた。
「やばい。松山くん...だっけ?俺に興味ないの?」
興味?そんなのあるに決まってる。
でもそれを表に出したら軽蔑されるのなんてわかってるから。
「なんで?俺お前のこと知らないから興味も何もないけど。」
なるべく無表情で淡々と。自分はあなたに一切興味がないと態度でわかってもらえるように、山田くんの方を見ずに話す。
すると横の想い人はまたブハッと大きく笑った。
「まーじで?!俺さ〜自分で言うのもなんだけど、女にモテるし人脈もあって友達も多いの。みんな俺に興味あんの。だからね、松山くんみたいに俺に興味がない人って初めて見た。ねぇねぇ、俺と仲良くしよ?」
仲良くしよ?!
なんで俺なんだとその発言にびっくりする。思わず右に首を回すと、ニカっと笑う山田くんと目があった。
「ね?」
スッと手が差し出される。
動揺して山田くんの目と手とを交互に見つめていると、我慢できなくなったのか、差し出されたはずの山田くんの手が伸びてきて、俺の手を握った。そしてそのままブンブンと上下に振られる。
「わ〜!めっちゃ嫌そうな顔してる!ウケる〜!!」
正直もう頭が混乱状態で山田くんの発現が理解できない。
「これからよろしくね、松山くん!!」
俺はただコクコクと頷くばかりだった。
高校生活3年目、初日。
今年は波乱万丈の1年になりそうだ。
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