小説 | ナノ


▼ ケーキとは愛だった

俺には、お菓子作りがすきな格好良くて優しい彼氏がいる。


「はい、これショートケーキ作ってみたんだけど...」
「ありがとう!すごいな!」

見た目も可愛らしく、味も少しクセがあるが美味しいお菓子。
彼氏の家に行くたびに出されるそれを俺は毎回楽しみにしていて。

「美味しい。ほんとすき。」
「それはお菓子に対して?俺のことは?」

座ってケーキを食べている俺の顔を覗き込んで不安そうにそう聞く彼。

すきだなぁ。

そんな彼を見るとすきの気持ちがほわほわと溢れてくる。

「......すきにきまってるじゃん...。」

恥ずかしさで俯きながらそう答えると、優しく唇にキスをされた。

「...ベッド、行こっか?」
「うん...。」

幸せで堪らないそんな日々。
甘くてふわふわなお菓子のような日常に胸焼けしてしまいそう。







とある日。

「よし!喜んでくれるかなぁ。」

いつものお返しにと、彼にサプライズでクッキーを作った。
形は不恰好だけど、味には自信がある。

クッキーをタッパーに詰めて蓋をする。
夜に行くとは連絡してあるが、この時間なら家にいるだろう。

まぁ、連絡しなくても大丈夫か。






ガチャ

「おじゃましまーす」

合鍵で玄関のドアを開け、靴を脱ぎ廊下を進む。


「ハァッ...ハァッ...」


荒い息が聞こえる。

なんだろう。
ドアを開けてキッチンを見た瞬間、息がとまった。

「なぁ...何してんの?」

そこには、ボウルに自分の精液を入れている彼氏がいた。

「?!?!え?なんでいるの...?!今日夜から来るって...」


―ガチャン―


落ちたボウルから彼の精液の混じったお菓子の生地が床に流れ出る。

時が一瞬止まったような気がした。

「ど、どうかしてるよ...!」

一歩後ずさる。
すると、目の前の彼に肩を強くガシッと掴まれた。

「ヒィッ」

驚きと少しの恐怖で思わず悲鳴が出る。

「んんーーーーーっ....ぷはっ...な、なにすん?!」

深い、キスをされた。


離れた目の前の彼を見ると、彼はボロボロと涙を流していた。

「な、なんで」
「...知られたくなかった。この性癖を。ごめん、ね?気持ち悪いよね」

そう言うと彼はパッと肩を掴んでいた手を離した。

「知られたらあれだよ...。もうさよならだ。」

ぐいっと手を引かれる。

「待てよ...!!」

目の前の彼の表情が見えない。一度も振り向かず強い力で引っ張られる。
そのまま玄関に連れていかれ、外に出された。

「すきだった。本当に。だから、ごめんね。さよなら。」


―ガチャン―


閉まるドア。掛けられた鍵。

暫く突っ立っていると、中から彼の泣き叫ぶ声とガチャンと何かを投げる音が聞こえた。

「なぁ。開けて。俺何もまだ言ってないじゃん。ねぇ。」

ドアにはりついてそう叫ぶも、声は届いていないようで。
俺の目からも涙がポロリと落ちる。

「ねぇ。」

俺はお前の前の恋人とは違う。お前の全てを受け入れるから。
そう、思うのに。


俺はただただ向こうにいる君の泣き叫ぶ声を聞きながら、うずくまりポロポロと泣くことしかできなかった。



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