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▼ 記憶(進撃・ジャンエレ・現パロ)

オレの恋人のジャン・キルシュタインは、優しい。
例えばがオレが痴漢や不良に絡まれようならすぐ助けに来てくれてオレを慰めてくれるし、オレが風邪をひいたなら一日中甲斐甲斐しく看病してくれる。勉強でわからないところもすごくわかりやすく教えてくれるし、オレが欲しいと言ったものはあまりに高いものでなければほぼ与えてくれる。勿論恋人の営みも優しい。オレを怖がらせないように壊さないように、まるでオレを一国のお姫様みたいに抱く。料理も洗濯も何でもできて頭もよく、顔も少し馬面だけど悪くはない。本当にオレにはもったいないぐらいよくできた男だ。

前世ではそんなんじゃなかったのに。







前世というものをあなたは信じるだろうか?その記憶をオレがうっすらと思い出したのは高校3年のとき。そう、ジャンに告白されて付き合うことになったときからだ。

最初は本当に断片的な記憶だった。少し夢に出てくるぐらいで、あぁまたこの夢かなどと夢を楽しみにしていたのも、まだ記憶に新しい。
しかし日を追うごとに、ジャンと触れ合っていくうちに、その夢は徐々に現実味を帯びてきた。巨人という存在。駆逐。父さん。母さん。ミカサ。アルミン。104期生。調査兵団。自由の翼。エルヴィン団長。リヴァイ兵長。リヴァイ班。女型の巨人。鎧の巨人。超大型巨人。そして、ジャン・キルシュタインと過ごした日々のことも。

これが前世のことだとはっきりわかったのは、大学内で准教授となっていたリヴァイ兵長と会って話したからだ。彼には生まれつき前世の記憶があったらしい。これまでに彼は前世と同じ顔と名前を持つ人数人に会ったそうだが、前世の記憶を持って生まれてきた人は今や教授となっているエルヴィン団長と、同じ准教授のハンジ分隊長のみだそうだ。その2人は記憶を持っているからかなのかはわからないが、前世と性格はほぼ同じらしい。しかし記憶を持たない人はまるっきり別人になっているみたいだ。顔は同じなのに。

前世を思い出してからというもの、現実のジャンと前世のジャンとのギャップに苛ついたり、悲しくなったりするようになった。顔と名前は同じなくせに、前世のようにいちいちつっかかってくることもない。喧嘩もない。怒鳴りもしない。眉間にしわが寄っていることもない。悪人面もしてない。笑顔が絶えない。

こんなの、ジャンじゃない。




最近ジャンを冷たくあしらってしまうことが増えた。ジャンといると、どうしても前世のジャンと比べてしまうからだ。ジャンに抱かれていると、ふと前世のジャンのあの粗暴で激しくときには甘い抱き方を思い出し、萎えてしまうことも増えた。ジャンは何かを言いたげだったけど、オレの何も聞くなオーラを察してか何も言ってはこなかった。

ジャンと夜に抱き合わなくなり、夢に前世のジャンが出てくる回数が増えた。前世でオレ達はほぼ何かするたびに喧嘩をしていて、また激しく抱き合っていて、イラつきもするけどどこか心の芯から蕩けていく感じがした。幸せだった。そんな幸せな夢を見た後、決まってオレは一人ジャンの見ていないところで前世のジャンを想って泣いた。

今のジャンはジャンであるけどジャンではない。哲学の記憶説によれば、昨日のオレと今日のオレが同じといえるのは、昨日のことをオレが記憶しているから、らしい。言ってしまえば、昨日の記憶をオレが全く持っていなかったら、昨日のオレと今日のオレは全く違う人間ということになる。それはジャンにも同じことが言える。つまり、今のジャンは前世のジャンとは全く違う人間ということだ。顔は同じだが根本的には違う人間を好きに一度は好きになってしまった前世のジャンへの罪悪感からなのか、それとも恋人になって身体まで繋げておきながら、同じ顔である前世の人に想いを寄せていることへの現世のジャンへの罪悪感からなのかはわからない。ぽつりと呟いた ごめん の言葉は冷たいシーツの中に消えた。

今の恋人のジャンのことはけして嫌いではない。ただ、前世のジャンが忘れられないのだ。ジャンは記憶を持っていなくて、新しい人間として新たな人生を歩んでいるのに、ただ自分だけが過去に置き去りにされたような気がして。それがたまらなく寂しくて。ジャンは別の人間になってしまったけれど、またオレを選んでくれた!という事実に、もしかしたら記憶を思い出してくれるんじゃないかという希望を捨てきれない自分がいるのも惨めで。どんどん心が弱くなっていく今のオレを前世のジャンが見たら笑うだろうか。





ある日、ジャンが悩みがあるなら俺に言ってくれ。力になるから。と言ってくれた。言ってくれたのに、その前世とは違う優しい甘い声色に、オレは、オレは、我慢できなくなって、





























































次の日からジャンはオレの部屋に姿を見せなくなった。大学でジャンの姿を見ることもなくなった。

後に共通の友人から、ジャンはお前がジャンに誰かの面影を重ねていることを知っていたよと教えてくれた。

もう永遠にジャンには会えない。何故だろう、そんな気がした。


その日の夜、夢を見た。これはオレが処刑される少し前だろう。この夢は実は何度も見たことがあった。ただ、ジャンが何を言ってるのか毎回聞き取れなかった。しかしその日の夜、そのジャンの声ははっきりと聞こえた。




「......エレン、もし俺達が両方生まれ変わって全然違う人間になったとしても、また恋をしよう。例えどちらかがこの今の時代の記憶を持っていたとしても、だ。俺は今よりもっとお前に素直にものが言えて、もっとお前に優しくしてやれるような人間になりたい。そして、またお前を惚れさせてやるからな。待ってろ。」



目覚めたオレは布団を蹴って走り出した。
















「おう、待ってる。お前が例えどんな人間になってもだ。」



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