小説 | ナノ


▼ 珈琲屋のお兄さん 4

お兄さんがいないと思って行った曜日にお兄さんがいてアドレスと番号が書いてある紙もらってぶわーってなってわーってなって頭の中がぐちゃぐちゃで店から逃げるようにして帰ってきた。

何を言ってるかわからないかもしれないけど、とにかく俺は家に帰ってきた。


頭はまだぐちゃぐちゃで整理する余裕もない。
あの本屋で会ったときはあんなに冷たい目をして拒否したくせに、今日はすごく優しい顔で微笑んでくれた。
嬉しいというより、なんで?と思う。常連客を逃したくないから?俺がいい金ヅルだから?なんで??

貰った紙をとりあえずテーブルに置いてみる。

どうしよう...。メールしていいのかな...。
俺としてはお兄さんとメールとか電話できるなんてもう願ったり叶ったりなんだけど、あっちの意図が読めなさすぎてなかなか送る勇気が出ない。
でも、送らないのも非常識な気が...する...。


送るか...。

意を決してメール画面を開く。が、何と送っていいのか浮かんでこない。
何回も打っては消して打っては消してを繰り返し、結局お兄さんにメールを送れたのは日付が変わった頃だった。






ふー...。
今日はなんか精神的に疲れた。

ベッドに寝転んで目を閉じたその時



―リリリリリリリリリリ―



電話?誰だよこんな時間にと思い不機嫌感丸出しで電話に出る。


「はい、もしもし。榎本ですけど。」

『もしもし。夜分遅くにごめんなさい。真部です、珈琲屋の店員の。メールありがとう。いきなりごめんね。』


へ???は????お、お兄さん?????
途端に眠気も疲れもぶっ飛んで、俺はベッドの上に正座をする。



「あ、いえ、俺も遅い時間にメール送っちゃってごめんなさい。お仕事お疲れ様...です。」

緊張からか声がうまく出てこない。

『ありがとう。さっき仕事から帰ってきたばっかりだから、全然大丈夫。』

お兄さんのクスッと笑ったような声が聞こえる。
どどどどどどうしよう何話したらいいんだろう。てかお兄さんの声がエロすぎるし電話だからこう耳元で囁かれてるみたいでもうなんか色々とやばい。

ぐるぐるのやばい頭で何を話そうか必死に思考を巡らせていると、お兄さんが話始めた。





『あのさ、今週の土曜日の午前中...空いてる?会いたいんだけど...さ。ちょっとランチでもしない...?』




????今、お兄さん何と?何と言いました?会いたい?俺に?土曜日?空いてるよ毎週お兄さんの曜日だもん???


「えっあっ、あ、は、はいっ、暇です。全然暇です。お、俺もっ...会いたいです...。」


会いたいと実際口にすると恥ずかしくて顔が真っ赤であっつい。
混乱でどもりまくってるしなんかもうほんとにやばいって!


『...すっごい嬉しい。じゃあ、今週の土曜日の10時に、この前会った本屋の前で大丈夫?』
「はい、大丈夫です。」
『よかった。じゃあまた土曜日に。おやすみ。』
「おやすみなさい。」



電話を切って再びベッドに横になる。
目はランラン。心臓はバクバク。

夜中にあの声は心臓に悪いって。



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