小説 | ナノ


▼ Wiederholen

「あんっ...!はぁ...ん...っ」

「はっ....はぁ...すきだ...」


部屋に響く水温と、二人分の荒い息遣い。
この光景をこうやって見るのは一体何回目だろう。

俺は台所に行き包丁を取り出すと、寝室の二人の元へ向かった。
















「おはよう。」

頭を撫でる感触と、部屋に差し込む明るい日差しで目が覚める。

「ん...おはよう。今何時。」

「10時。今日友達と街に買い物行くんでしょ。早く準備して。30分後には出ないと間に合わないよ。」

こいつは俺の恋人。年下だけど俺よりしっかりしてて頼れるいい奴。
付き合ってもうすぐ2年。2年経つのになかなか素直になれないけれど、俺はこいつがだいすきだ。誰にも渡したくない。誰にだって。






「悪い待たせた。」

「おっそいよ〜何〜また昨日お楽しみだったわけ〜??」

「うっせぇ。それよりほら行くぞ。」


こいつは俺の親友。
何回も、俺はこいつに恋人を寝取られた。

最初にその現場を見た時、ショックと怒りと憎しみと悲しみで頭が真っ赤になって、俺はこいつを殴り殺した。その後のことはよく覚えてない。

気付いたら今朝と同じように目が覚めて、隣にはいつもと同じように恋人がいて、こいつも生きていた。わけがわからなくて、恋人にそのことを話したけど信じてもらえなかった。きっと悪い夢だったんだなって思った。その数日後、俺はまたこいつに恋人を寝取られた。俺は今度は二人を殺した。

目が覚めるとまた俺の隣には恋人がいて、こいつも生きていた。繰り返してる、そう気付いたのはこいつをまた殺したとき。起きて寝取られて俺がこいつを殺すまでが1セット。俺は絶対に恋人をこいつなんかに渡したくない。恋人とずっと一緒にいたい。そのためには、こいつを恋人に近づけてはならない。そう意気込んで、俺は何回も繰り返してきた。


今回で一体何回目だろうか。
何回目も二人が抱き合っている光景を見て、そのたびにもはや作業のようにこいつを殺してきた。そろそろ終わりにして、俺は恋人と幸せになりたい。

今回はいける自信がある。俺の恋人はこいつと今回は一回も接触していないし、俺は恋人と同棲を始めた。今回で終わりにするんだ。俺はやっと恋人と幸せになれるんだ。



















その日は体調が悪かった。
恋人が病院に行った方がいいと言うので病院に行った。予想よりもかなり早く診察が終わり、恋人に迎えの催促の電話をした。この時間なら家にいるはずなのにあいつは電話に出ない。嫌な予感がした。すぐにタクシーを呼び、家に向かった。






ガチャ


「あんっ...!はぁ...ん...っ!やぁ...」

「はっ....はぁ...すきだ...すき....」


なるべく音をたてないようにドアを開け、寝室に向かうと、何度も聞きなれた水音と喘ぎ声が耳に入った。

なんで。怒りや憎しみはもはやなくて、悲しみだけが胸の中をぐるぐるとしている。
涙が一粒だけホロリと零れた。



所詮何度繰り返しても俺はずっとこいつに恋人を寝取られるのだろう。俺と恋人が幸せに暮らす運命の道は、存在すらしていないのかもしれない。

そう考えたらもう今までやってきたことの全てが無駄だったような気しかしなくて、何も考えたくなくて、俺は近くにあった睡眠薬の瓶を手に取り、中身を一気に飲み干した。

俺が死ねばこの繰り返しも終わるかもしれない。
これが正解だったのかもしれない。邪魔だったのは俺だったのだ。

そこで意識は途切れた。













































「おはよう。」

目が覚めるとそこは見慣れた天井で、隣のあいつが優しい顔で俺の頭を撫でていた。

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