▼ ずるい人
先輩と別れたい。
そう思い続けて一体何カ月が過ぎただろうか。
オレと先輩は元は部活の先輩後輩で。告白は先輩から。オレも先輩がだいすきだったから、告白されたときはほんとにほんとに嬉しくて堪らなかったのを今でもはっきりと覚えている。
先輩に違和感を持ち始めたのは今年の秋口から。
先輩は今年大学生になって、一人暮らしを始めた。オレは一応先輩の恋人なわけだから、よくその部屋にも行って、まったりしたりやることやったりしてた。
先輩が一人暮らしを始めた当時、その部屋に呼ばれる回数は週4ぐらいだった。だがそれは秋になってから週3、週2、週1と減っていった。今は一応週1では会ってくれてるけど、大体俺が押しかけてる感じになっている。
確信を持ち始めたのは冬の初めから。
見てしまったんだ。先輩と知らない女の人がキスしているのを。
その日はたまたま先輩に届け物があって、先輩の家に向かおうとしてた。連絡せずに行ったオレも悪い。ただ、びっくりさせたかったんだ。
先輩と女の人は、大胆にも先輩の住んでいるアパートの前の道路でキスをしていた。綺麗で大人な女の人だった。その日はどうやって帰ったか覚えていない。
ただその後、先輩の部屋のコンドームの数が減っていたり、知らない香水の香りが部屋に充満していることが多くなった。
オレは、気付かない振りを続けた。
いつもヘラヘラ笑っていた。
3月、オレは先輩と同じ大学に合格した。
この頃にはもう気付かない振りを続けるのも辛くて、先輩と会うのを受験を言い訳に避けていた。
でも、ここで立ち止まってはダメだ。大学生にもなるし、心機一転しなくては。ついにオレは決心を固めた。先輩には合格報告をしに行くと伝え、オレは久しぶりに先輩に会いに行った。
久しぶりに見る先輩はやっぱりかっこよくて。だいすきの気持ちが溢れ出すのを止められなかった。しかし、伝えなくてはならない。
「先輩、話があります。オレとわかれ.....んっ...」
別れてくださいと言おうとした瞬間、オレの口は先輩の口で塞がれた。
まるで、その先を言わせないと言っているかのようなキスだった。
「ん...っはぁ....ダメだよ。お前は俺なしじゃダメになっちゃうだろ?それにな、俺もお前がだいすきだから、お前がいないとダメになる。本当だよ、ね、信じて?」
ずるい。そんな目でそんな真剣な口調でだいすきなんて言われたら、オレが抗えないの知ってるくせに。
「せんぱっ...!ごめんなさ...もう言わないからぁ!」
「いい子。愛してるよ。」
だいすきなんて、愛してるなんて、これっぽちも思ってないくせに。先輩はオレのことをもうただの都合のいい性欲処理の道具ぐらいにしか思ってないだろうに。
本当にずるい人。
オレはベッドの上でいやらしく脚を開いた。
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