▼ 何もない休日
いつからお前のいない日常が日常になっただろうか。
最初は作りすぎてしまった食事も、今はきっちり一人前の量になった。6時の目覚ましをセットしなくなった。家からココアがなくなった。歯ブラシが一本になった。
数え始めればキリがない。
お前の顔は思い出せるのに、くるくると変わる表情が思い出せなくなった。
写真は全然撮らなかったから。今更になって写真を撮っておけばよかったと後悔しても、もう遅い。卒業アルバムや集合写真の無表情なお前しか、俺はもう見ることができない。
お前のことを想う感情ばかり追い続けていたら、お前の体温を忘れてしまった。
二人一緒のベッドに入り、シーツに包まってお互いの体温でお互いを温めあったあの日。いくらあの時のことを思い出そうとしてベッドに入っても、俺はもう自分の体温と冷たいシーツの感触しか確かめることができない。
お前がいなくなってから失ってしまった感情ばかり数えていたら、お前の声まで思いだせなくなった。
あの時俺の携帯電話は壊れてしまったから、留守電も消えてしまった。今はもう俺を呼んだあの甘い声を二度と聞くことはできない。
お前と付き合って今日は7年の記念日。
毎年見に来ようと約束していた桜が、今年はもう散り始めている。
散りゆく桜が、俺から消えていくお前に見えてきて。俺は再び目を閉じた。
幸いにも、今日は何もない休日だ。
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