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この話は今や戦闘ノッキング部に語り継がれる伝説と化しているらしい。因みに戦闘ノッキングのチームは五人(迄で)一組。同じ学校から三チームがエントリー出来るので、個人主義を掲げ"深紅"を意味する"Crimson"(クリムソン)、チームワーク主体の"深藍"を意味する"Ardoise"(アルドアーズ)、そしてその両方をバランスよく使う戦略重視の"深緑"を意味する"Oerw"(オエル)という三チームが存在する。個人の得意分野を活かすチームを三パターンの中から選べる、ということを示し、勿論チーム名はチームカラーを表し、選手からは愛着を込めて"戦闘服"と呼ばれるユニフォームにも反映されている。
そして話は戻るが、その相手チームはステージ各所に設置されたカメラ映像での協議で、その攻撃が"故意"だと判定され、命の危険がある競技を厳しく取り締まる為、最も重要なルールの違反を理由に今後10年の全国のあらゆる戦闘ノッキング大会への参加資格を剥奪された。即ち、廃部である。

その後なまえは部長をボギーに譲り、二年の半ばに惜しまれながら戦闘ノッキング部を辞め、引退した。そして筋断裂した腕は傷跡は残ったが一応の完治はして、しかし戦闘ノッキングに使われる重ノッキングガンの重たい引鉄を引けるほどの腕力が戻らなかったからだ。日常生活やなまえ本来の武器を使用するのに不便は無いのが不幸中の幸いだったという。そんなこともあったなと一年以上昔の、しかし昨日のように思い出せる色鮮やかな記憶をつらつらと追いかけながらくつりと笑った。競技に使われる重ノッキングガンというのは、文字通り"重さ"に規定のあるノッキングガンの事で、ハンドガンタイプやライフルタイプなど色々な形があるが、そのどれもに重さは××以上、引鉄の強度は××kg以上という決まりがある。使いやすさ重視で使い慣れたノッキングガンに重りを付けるのも、スコープや消音機などのパーツを足して重みを加えるのも自由だ。
"戦闘ノッキング"という競技はこのグルメ時代というご時世に適った学生の実戦経験の場である為、鍛練の意味を込めて通常使う物よりも重たくしてあるのだ。そんな規定など無くても、国立美食大学の高等学校や中等部が擁するチームの筆頭やリーダーは決まって、特殊技能を持つ者が集まる"特A組"であり、彼らはその個々の能力はルール上競技には使えない上、元々の身体能力に合わせた銃を持つので扱う銃は他の誰より重たいのだが。そして凡ゆる意味でこの時代最も教育力と環境を持つ国立美食大学の附属学校は他校と較べればエリート中のエリートであり、リーダー以外の部員のレベルも総じて高い。
故に、全国大会は勿論のこと、名立たる有名企業の後援によって開かれる大会の殆どの優勝旗は国立美食大学付属学校に飾られている。勝つ度に増えるトロフィーは学校で所有するとそれこそ山のようになるので、獲得チームのリーダーが固有する事になっている。
その為、五兄弟のうち次男以外の四人が各世代で部長やチームリーダーを経験しており、更に四人全員が当然の如く中・高と続けて来た彼らの家には、長男・スタージュンが獲得した大きな大会の中でも選りすぐりの16個(実際の獲得数は36個。他はチームメイトのMVPに進呈)、なまえは"Crimson"を率いて精力的に大小様々な大会に参加した為、二年の途中で辞める迄に58個獲得したうちの27個を所持(競技の出来に満足出来た時の物だけ持って帰って他はチームメイトに進呈)、ボギーはなまえと同チームでいることが多かったので彼の居なくなった中3と高2以降の活躍で色々な大会に出場して44個獲得して適当にチームメイトで分けて余った(チームメイトから押し付けられる形で)17個を所持する。
末弟・セドルはなまえやボギーとのチームと同じ活動が多かったのだが、二人がどちらも居ない時にチームを率いて出場した大会で今までに獲得したのが28個、所持しているのが16個。ボギーが大学一年生になる今年高校三年生であり、部長、そして"Oerw"のチームリーダーとして今年も幾つか獲得するだろう。つまり、76個ものトロフィーが実家の半地下室には眠っていて、これからも少し増える予定だ。

戦闘ノッキングは中高生の為の競技であり、大学には部活もサークルも存在しない。プロリーグなども無い。何故なら、戦闘ノッキングで活躍した選手は殆どが大学での実習に移り、社会に出れば美食屋として活躍するからだ。そしてボギーはその前者。
なまえは、中等部に入学して来るなり兄を追うように戦闘ノッキング部に入部して来た若かりしボギーを思い出してくつりと笑った。重ノッキングガンの扱いを教えるにあたり、才能がある、と思ったのはやはり間違いではなかったと嬉しくなる。セドルも技術は劣らないが、ノッキングガンで仕留めるより自らの手で戦いたいタイプなので才能があるというのとは少し違う。
フルコースの四番目、アントレ(第一の肉料理)が差し出されたのに新しいカトラリーを持ち上げて、なまえは学生時代を少しだけ懐かしんだ。



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