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「少し早いけど、」
「?」
「ボギー、大学入学おめでとう。これお祝い。大事に使えよ?」
「開けていいか?」
「勿論」


形ばかりの入学式まであと二週間、"食事の用意はしなくていいからね"と昼頃にメールが入って、夜、仕事から帰って来たなまえは何人かの給仕を連れていて、彼らがしずしずとキッチンに入り、数人がダイニングテーブルをてきぱきセッティングする間にジャケットを脱いでちゃんとオーダーメイドのスーツ用のハンガーに掛け、ネクタイを緩めてYシャツの腕を捲ったあと、何やら薄いが長い箱を渡された。結構ずっしりとして重い。
リビングのテーブルの上で包装を解いて立派な化粧箱を開けると、顔を覗かせたのは銃床が飴色の木で出来ていて、銃身はてろりとまろいだ光を反射して輝く純銀製のノッキングライフルだった。銀の銃身には素人目にも凄絶なオーラが立ち昇るのが解る、とびきり美しい半立体の彫刻が施されていて、銃床の底にある金色の繊細な文字に目を奪われる。


「……ちょ、これ!」
「盗まれないように気をつけろよ?」


超有名メーカーのロゴの下に、オーダーメイドを表す1/1の文字が刻んである。その銃床を肩に宛てて構えてみるとまるで何十年も使い込んで来たような馴染み具合にわくわくする。
世の美食屋が挙って買い求める最大手メーカーの、それも予約でさえ何年も待たされ、完成までにも一年以上がザラにかかるオーダーメイドのしかもライフルタイプ。細かいパーツのひとつひとつまで、職人の手作り故に時価、つまり値段の上限が無いこれをあっさり手に入れるあたりになまえの凄さがわかった気がした。


「なまえ様、お食事の準備が整いました」
「ありがとう。さ、ボギー、ご飯にしよう?今日はお祝いだから豪華だよー」


まるでホテルのレストランばりのセッティングで、食前酒が注がれたのをカチンと合わせると、改めてお祝いの言葉を貰った。
皿に提供される前菜にきっちり並べられたカトラリーを取ってナイフを入れる。


「あれの予約何年待ちだったんだよ?」
「五年前に予約して三年待ち、二年掛けて作って貰って今春完成。…ボギーが、中等部で戦闘ノッキング部に入って一年位経った頃に予約しといたんだ。お前と俺は体格も似てるし、お前がノッキングを極める道に進まなきゃ俺が使えばいい話だしさ。でも良かったよ、お前が大学進学でそっちに進んでくれて。俺は怪我でもう重ノッキングガンで競技は出来ないし」


スーツのジャケットを脱いでYシャツの腕を捲ったなまえの利き腕、左腕の手首から15cmの所に直径2cm程の引き攣れた傷跡が外側と内側に見えている。これはなまえが高校二年の春の大会で出来た傷。
重ノッキングガンで行われる戦闘ノッキングという競技は、動物型GTロボを凡ゆる環境ステージで如何に早く確実に狩猟出来るかを競い、そのタイムや弾の命中位置や命中率によって得点を競うもので、あらゆる環境への適応力、洞察力、チームワーク、標的となる動物の生態知識、個々の戦闘力などが試される。それに加え、各校選手がチームで揃えて着用するユニフォームも趣向を凝らす学校は多く、その華やかさから観戦するファンが多いのも特徴だ。
予選は同条件下での標的を倒した数や命中位置によるポイント上位のチームが本戦へ進み、本戦では同フィールドで撃ち合って狩猟数などを競う。勿論相手チームへの妨害その他諸々も許可されているのであるが、直接の対人攻撃は禁止されている。
ルール違反を承知で、相手はリーダーでありエースであったなまえの利き腕を撃ち抜いた。弾は骨と骨の間を巧く抜けて貫通したが筋肉や神経がぶち切れる大怪我。

原則、"何が起こっても"試合は中断されない。そのためなまえは自分で止血をし、ボギーと合流して利き腕でない右腕でバックアップをして得点の高い獲物を狩り、見事圧勝した。これまで国立美食大学高等学校戦闘ノッキング部第一チーム"Crimson"はチームワークより個々の戦闘力を優先した超特攻型チームだったので、その筆頭であるなまえを潰せば勝てるとでも思ったのだろうが。生憎なまえは自分で獲物を仕留めるのと同じくらい、誰かのバックアップやフォローに長けているのだ。これまで仲間のフォローは最低限(つまり広大なステージではほぼ皆無という意味)の"Crimson"でそんな姿を見せた事が一度たりと無かったので頭を潰せば、なんて短絡的な思考に至ったのだろう。




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