美しきお姫様のダンスのお相手は、
 キラキラ光るシャンデリア。あちこちにあるテーブルには高級感あるクロスが敷かれて、その上には見るからに豪華なご馳走が載っている。そして何よりも、そこにいる人達は皆きらびやかな衣装を身にまとっていた。

「はあ……」
「どうしたんだ、そんなため息をついて」
「う、うん。ちょっと、気後れしちゃうなと思って」
「そんなことか、だったら自信を持つが良い!」
「ありがと、ドラちゃん。でも、本当に良かったのかな」
「なぁに、心配するな。ククク……ヘルシングのやつめ、この間は驚かされたからなぁ……今度はこっちの番だ!」

 ニヤリと笑うドラちゃんに、苦笑いをするしかなかった。
 いつものように仕事に行ったヴァンを見送り、シシィとふたりで屋敷で留守番をしていたのは数時間前のこと。今隣にいるドラちゃんが突然訪れたかと思うと、パーティーに招待する! と言われあれよあれよと言う間にこのパーティー会場へとたどり着いてしまった。
 そう、ここは何と言っても――

「さぁ! 行くぞカルディア!」
「えっ、待って……!」

 ぐいぐいと手を引っ張られ、足早に人混みの中を進んでいく。人とはぶつからないように体勢を整えつつ、きょろきょろ辺りを見回した。すると目に入るすれ違う人々がちらりとこっちを見ているのが分かり、優雅に談話してる人からしたらこんなずかずかと何処かに向けて歩いて行く姿はおかしいのかもしれない、と思う。ドラちゃん、と声をかけようとしたが、その声は別の名前を呼ぶこととなった。

「ヴァン……!」
「カルディア!? なぜここに……!?」

 彼がいた。
 そう、彼の今夜の仕事はレンフィールド侯爵の護衛で、このパーティーに参加することだった。事前に話を聞いてはいたからここにいることも知っていたしドラちゃんも当然知っていて、だからこんなことをしたのだろう――そんな当の本人は得意げに満面の笑みを浮かべていた。

「作戦は大成功だな!」
「ドラクロワ……お前が連れてきたのか」
「ああ、余の相手として来てもらった」
「どういう意味だ」

 すっと目が細められ、彼の手が背中に回るのを見て慌てた。一度だけ、彼の今の姿――礼服の格好を見た時に、武器を何処に隠しているかを何気なく聞いた。今まさに彼が手を回している場所だ。
 急いで二人の間に入ろうとしたかけれど、ドラちゃんは慌てることなく片手を上げて私を制した。

「そう怖い顔をするな」
「おあいにく、元からこの顔だ」
「全く……大切にしたいのも分かるが、見せつけてやらぬと他の輩に目をつけられてしまうぞ」

 やれやれ、と大げさに首を振るドラちゃんは、ぽんと私の背中を押した。押されるがままに、一歩二歩と彼の方へと歩み寄った。

「余はレンフィールド卿と話をするから……カルディア、その間は奴の相手をしてやるとよい」
「う、うん……?」

 ひらりと手を振ると、少し先でこちらの様子を可笑しそうに眺めていた侯爵の元へと小さな王は去っていった。
 残された私とヴァン。そっと彼の顔を見上げると難しげな表現をしていて、私はおずおずと口を開いた。

「えっと……ごめんなさい」
「謝罪される理由が分からない。お前はドラクロワに連れ出されただけだ」
「うん……」

 確かにそれはそう、なんだけど……と返事に困っていると、彼の視線が少し下に行く。

「……それを、着てきたのだな」

 それ、とは今私が身につけているドレスのこと。前にふたりきりの舞踏会に行くために、彼が容易してくれた青いドレス。

「あいつのことだ、他に、お前用のドレスも用意されていたんじゃないか?」
「用意しようかとは言われたけど、やっぱり、ヴァンがくれたのを着たかったから」
「……」

 また無言になったから、ごめんなさい、とまた言いそうになりかけた。けれどその言葉は紡がれなかった。
 口に、彼の指が触れたから。

「あっ……!」

 慌てて顔を引いたから、手袋の先が少し焦げたように溶けただけで済んだが、私の顔からはさっと血の気が引いたままだった。

「何して……!」
「寸での所で止めるつもりだったんだがな、思ったより動揺しているみたいだ」
「え……?」

 彼はしげしげと指の先を見て小さく息をついた。
 そのままその手が差し出されて、ぱちと瞬きをして見つめ返す。照れくさそうに、でも優しく笑っていた。

「あいつに言われてするのは癪な気もするが……見せつけてやろうか」
「何を見せつけるの?」

 私の問に答える代わりに、彼は手をそっと掴んだ。互いに手袋はしてるけど、それでも彼の温かさは伝わってくる。引かれるがままに彼の体にぴたりとくっついて、背中にはもう片方の手が添えられている。

「私と、踊ってくれるか」
「……聞く前に、これ、もう踊る体勢だと思う」
「嫌であれば離れる」
「仕事はいいの?」
「まだ話に夢中らしいからいいだろう」

 彼の目線を追うとたしかに侯爵たち二人は話をしてるけれど、こっちを見てにこにこと笑っているからなんだか余計に恥ずかしくなった。
 悪いけれど見なかったことにしようとそっと視線を戻し、彼を見上げた。
 いつもと違う服、そしてその服に合うようセットされたいつもと違う髪型。でも、私を見つめてくる優しい瞳は変わらない。

「お願い、します」

 彼と二度目のダンスを、始めよう。


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bkm
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