Lost Children



「おーう財前、退院おめでとさ……!?」

「あ、謙也さん。どーも、相変わらず間の悪い人やな」

謙也くんは何の前触れもなく現れた。まぁ、彼の性格上連絡を入れるという行為はほとんど意味を為さないということは私も重々承知なのだけれど、それにしてもタイミングの悪さというか。
そして、至ってマイペースを貫く彼が謙也くんがやって来た程度で私を離してくれるはずもなく、初めて恋人なるものができた中学生よろしく寒気のするようなレベルでベタベタしているのである。
謙也くんも謙也くんで彼の性格を分かっているからか何なのか、妙に静かなので私だけが焦っている。なんでそんなに納得したような顔をしているのだろうか。

「見ての通りお取り込み中なんで帰ってくれません?」
「お前っちゅーやつは……いや、充分知っとるけどムカつくもんはムカつくっちゅー話や……」
「そうだよ、失礼だから!あといい加減離せ!」

じたじたと暴れていると観念したように彼は私を解放した。
ここぞとばかりに距離を取ろうとした私の思惑は残念ながら見え見えだったようで、腕はしっかり捕まれていたけれど。

「有言実行過ぎるやろ、お前。なまえもあないなこと言っといてからに、あっさり落ち着いとるし」
「あっさりじゃないもん!」
「せやから、なまえは案外単純やって言うたやないですか」
「誰が単純なの!?」

おかしい。いつもなら謙也くんがツッコミなはずだ。なぜ私がこんなにテンポよく二人にツッコミ入れてるんだろう。


「まぁ、人間最後は落ち着くとこに落ち着くっちゅーことっすわ」
「……私は不本意だけど」
「どこがやねん、あんだけ未練がましい顔して俺んこと見よってからに」
「はぁ!?どっちがよ!」

言い合う私たちを見て心底呆れたように笑う謙也くん。昔は私がその位置にいた気がするのに、なんだかこれでも心地よく感じている私はとうとう暑さに頭がやられてしまったのだろうか。
長い夢の続きを見ている、そんな気がする。あの日に途切れた糸が繋がって、成長を止めてしまっていたのかと思うくらいに私は子どもになっていた。

でも、きっと私はいつまでも彼やあの頃の仲間たちの前ではまた子どもみたいになってしまうのだろうと、なぜだか確信していた。









END


[ 10/11 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -