いくつ?
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
窓から入ってきた光がまぶしく、ティアは目を恐る恐る開いた。

まず視界に入ってきたのは見慣れない天井。
そして、寝かされているのがベッドだと気付くと、ティアはゆっくりと起き上がった。


「――っ……」

右腕に引きつるような痛みを感じ、視線をおとす。
そこには、白い包帯が綺麗に巻かれていた。

――そういえば…わたし、ルークを庇って…

少しずつ蘇る記憶に、ティアはなんとなく自分の置かれた状況を把握する。


すると、コンコンと控えめなノックの音と共に扉が開けられた。


「あ、ティアさん!目が覚めたのですね」


入ってきたのはフィル。
手には新しい包帯と薬の入った小さな箱を持っていた。

フィルは、ティアの寝ていたベッドに近寄ると近くの椅子に腰を下ろす。


「怪我のほうはどうですか?まだ痛みますか?」

「いえ、少し引きつるだけです。心配かけてごめんなさい」


ティアが目を伏せて言ったので、フィルは首を横に振り「良かった」と微笑んだ。
フィルはティアの包帯に手をかけると、しゅるしゅるとほどいていく。

やはりすぐに傷は塞がっておらず、刀傷が残っていた。


「あちゃ、やっぱり残ってますね。」

「大丈夫です、自分で治せますから」

ティアはそう言うと、怪我の部位に手を当て治癒の譜術をかける。
すると、みるみるうちに怪我は消えて、綺麗な肌は元に戻っていく。

それを見て、フィルは「ほー」と感嘆の声をもらした。


「さすが、第七音譜術師。いいですねー、うらやましいです。」

「え?」

「第七音譜っていうのは、努力次第でなんとかなるものではないから。
 わたし第七音譜術師にあこがれていたんですよ」


にこにこと笑って答えるフィルに、ティアは不思議そうな表情で首をかしげた。
その様子に答えるべく、フィルは笑顔を苦笑へと変えた。


「だって、怪我を治せるじゃないですか。
 好きな人が怪我したときに、やっぱりすぐに手当てしてあげたいし…」

「少佐には、好きな人がいるんですか?」

「はい、片思いですけどね」


内緒ですよ、とフィルは人差し指を口に当てて微笑んだ。
その幼い動作に、ティアは自然と口元に笑みが浮かぶ。


「ところで、少佐…ここは?」

「セントビナーの宿屋ですよ。ってティアさん…わたし、ちょーっと気になってたんですけど」

「え?」

「その『少佐』ってのやめてもらえませんか?ティアさんは、マルクトの方じゃないですし…
 出来ればこう、お友達!っていう感じがいいなって。あ、出来れば敬語もやめてほしいんだけど」


フィルはどこか熱のこもった目でつらづらと語る。

先ほどの動作といい、この言い方と言い…

ティアは、思わずプッと噴出すとおかしそうにクスクス笑い出した。
急に笑い出すティアに、フィルは言葉を止めてどこか恥ずかしそうにしながらも、頬を膨らませる。


「わ、笑わなくたっていいじゃないですか!」

「あはは、あまりにもフィルが可愛かったから…つい。」

「ついって…、可愛いって言われると複雑…。これでも、もう23なんだから」

「そうなの?てっきり20歳未満だと…」

「童顔は認めます。そういうティアだって―…」

「わたしは、16よ。」

「じゅうは…―――って、え?」


絶対に18くらいだと思っていたのに、とフィルは思わず固まる。
そして、彼女の視線はティアの胸へと移動した。

「……そんなに発育いいのに?」

「変なところ見ないでくださいっ!」

ティアは恥ずかしそうに胸を両腕で隠す。


「いいじゃない、減るもんじゃないし。一度お姉さんに触らせなさい」

「しょ、少佐!手つきがいやらしいですっ」

「――………いやらしいです、って…」


わきわきと指を動かすフィルに、身の危険を感じたティアが言った台詞に思わず落ち込んだ。


「と、ところで、アニスとは合流出来たのかしら?」

「え?ああ、まだ確認してないよ。ティアも気を失ってたし、ルーク様も混乱していたようだったから
 とりあえず宿を借りたの。」

「ルークが…」

急に視線を落とし、表情を曇らせる相手にフィルは軽く溜息をつき立ち上がった。


「今からわたし達は基地に向かうけど、ティアはどうする?」

「行くわ」


ティアがベッドから降りるのを見て、フィルは満足そうな笑みを浮かべていた。





**




「おや、ティア。もう体はいいんですか?」

「ええ、心配かけてすみませんでした」


部屋からでれば、ジェイドが声をかけてきたのでティアは軽く謝罪した。

ガイもどこか心配そうにしていたが、ティアの声を聞いて微笑む。
ただ、ルークだけが視線を泳がせながらも、声をかけようか悩んでいる姿があった。


「ご主人様、ティアさん起きてきましたですの」

「………」


ミュウの言葉にも中々反応しないルーク。



「ティアも起きたことですし基地に向かいましょうか」


ジェイドがそう言うと、宿屋をさっさと出て行こうとした。

だが、やはりルークはバツが悪そうな顔をしたまま立っているだけ。


それを見てガイが溜息をつくと、ルークの肩を軽く叩いた。


「ルーク、お前はティアと話すことがあるだろ?」

「そうですね。ルーク様、基地の前で待ってますのでお話が済んでから追いかけてきてくださいな」

「ガイ…、フィル…」

このわだかまりをなんとかするべく、ガイとフィルが交互にそう言うとルークはぎゅっと拳を握る。


「ミュウも一緒に残ってくれる?」

「はいですの!」

「ちょ、フィル…――」

「ティア、ルーク様をお願いね。じゃあ、行きますかガイ殿」

「ああ。じゃあな、ルーク、ティア」


止める間もなく颯爽と言い残すとガイとフィルはジェイドの背を追いかけるべく駆け出した。

あとには、微妙な雰囲気のルークとティア…そしておまけにミュウを宿に残したまま。





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