自己嫌悪
セシル達へ新しい食事の準備をするように部下へ指示を出した後、フィルは村の中を歩いていた。
少しでも頭が冷えれば良い。
そのつもりで重い足を動かす。

すると、ふいに耳慣れた声が聞こえ始めた。
弾かれたように顔を上げると、そこには少しの間だが共に旅をした仲間がいた。

「フィルっ! 良かった、無事だったんだな!」
「みんな……!」

こうして仲間が全員揃っている姿を見るのは久しぶりだ。
思わず頬が緩まるが、そこに上司であるジェイドの姿をがあるのに気付いて、ハッと姿勢を正す。
それを見てジェイドも自然と笑みをこぼした。

「アイラス少佐、ご苦労様でした」
「いえ、大佐こそ……、エンゲーブの人たちの避難……、見事な手腕でした。おかげさまで、こちらに残っている村民はいません。ルークも、慣れない仕事だったのにお疲れ様」
「あ………」

ふとルークの顔に陰りが見えた。
そして、ぎゅっと拳を握りしめるその様子に、フィルは状況を察してしまった。

「……俺、全員、守り切れなくて……、怪我もさせてしまったし、それに死なせ……――」
「ルーク、それは貴方だけの責任じゃないわ。わたしだって、戦争を止められなかった。お互い様だよ」

ルークの気持ちは痛いほど分かる。
アクゼリュスで人を死なせてしまった罪は、未だに彼の中で燻り続けている。
だからこそ、今度こそ守りたいと避難を買って出たのだ。
だけど、避難をするためには戦場を駆ける方法しかない。
それも素人である村民を連れ立ってのことだ。

怪我人はもちろん、死人だって出てもおかしくない。

「……、ね、フィル」
「ん?」
「具合、悪そうじゃない? 顔色悪いよ」

アニスの心配そうな声に、フィルは伏せかけていた顔をあげた。

「そんなことないよ。大丈夫。それより、状況が知りたいの。ルグニカ平野は……――」
「ああ、魔界(クリフォト)に落ちちまった。だけど、崩壊とは違う。なんとかセフィロトの力で泥の上に浮いているような状態だ」
「セフィロトの力で……?」

自分の体調よりも、状況が優先だ。
フィルはガイの説明を受け止めようと、しっかりと、前を見据える。
ルークの超振動を使い、それをジェイドが補佐することで、崩落ではなくまるでエレベーターのように大地を降下させたのだと。
それにより、自分たちは死なずに済んだのだと。

「ありがとう、みんなのおかげで兵達が助かったわ」
「兵だけじゃないよぅ、フィルだって助かったじゃん」
「そうよ、フィル。立場はどうであれ、私は貴方が助かったことも嬉しく思うわ」

将の立場として礼を伝えれば、アニスとティアの言葉が嬉しくて、フィルの顔が自然と綻ぶ。
軍人であれば、戦場で死ぬことも覚悟の上だというのに、自分の無事をこうして喜んでくれる人がいるというのはなんと暖かいことか。

それに釣られるようにナタリアが両手を合わせて、大きく頷いた。

「ええ、フリングス将軍も無事でしたしね。それに、セシル将軍も!」
「………っ!」

二人の名前が出た瞬間に、ビクッと肩が揺れた。
そして気まずげに顔を逸らすと、めざといアニスがぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「……え、何? 何かあったの?」
「………、なんでもない。本当に、なんでもないの」

あくまで醜い嫉妬だから。

口から出そうになったその言葉を飲み込んで、フィルは仲間達に道を譲る。

「ナタリア、セシル将軍と仲が良かったよね。宿にいらっしゃるから、顔を出してあげて。きっと彼女もナタリアのこと心配していると思うから」
「ええ、ありがとうございます。フリングス将軍からも許可を頂いたので、是非そうさせてもらいますわ」

無理やり笑顔を作って、フィルは歩き出すその背を見送る。
大丈夫、瘴気の所為で顔は読まれていないはずだ。
そう願っていれば、隣にアニスが両手を後頭部にかけたながら此方を見上げていた。

「……、フィル、本当になんでもないの? 今にも泣きそうな顔してさ」
「………、うん。大丈夫。ただ……、アニスの言うとおりになっちゃうかもしれないなぁって自己嫌悪してただけ」

フィルはそうぽつりと呟きながら、セシルのいる宿を切なげに見つめた。
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