アルビオールの外、ルグニカ平野はすでに戦争の真っ只中だった。
平野を埋め尽くすようなキムラスカとマルクトの兵達が相手を殺す為に、自国に勝利をもたらす為に剣を振るい譜術を放つ。
そして、陸艦もお互いに譜号砲を放ち、艦体をそのまま文字通り体当たりされた敵側の艦体は、障壁を破り炎を上げる。
人が死に、人を殺す。
これの世の地獄だった。
「これは……まずい。下手をすると両軍が全滅しますよ」
ジェイドが静かな声でそう言った。
そして、アニスも納得した顔でジェイドへ目を向ける。
「あ、そうか。ここってルグニカ平野だ。下にはもうセフィロトツリーがないから……」
つまり、両軍…下手したらこの場にいる全員が崩落に巻き込まれ命を落とす。
「これが……兄さんの狙いだったんだわ……」
「どういうことだ?」
「兄は外殻の人間を消滅させようとしていたわ。預言でルグニカ平野での戦争を知っていた兄なら……」
「シュレーの丘のツリーを無くし戦場の両軍を崩落させる……。確かに効率のいい殺し方です」
ルークの問いにティアが悲痛の面持ちで言い、ジェイドが後を続ける。
だが、ルークは冗談じゃないと声をあげ、簡単に納得しなかった。
「どんな理由があるのか知らねぇけど、師匠のやってることはむちゃくちゃだ!」
「戦場がここなら、キムラスカの本陣はカイツールですわね。私が本陣へ行って、停戦させます!」
「けれど、エンゲーブも気になるわ。あそこは補給の重要拠点と考えられているはずよ。セントビナーを失った今、あの村はあまりに無防備だわ」
王族二人が強い意思を持って言葉を発すると、ティアがそう言った。
それを聞いたアニスは身を抱きしめる。
「崩落前に攻め滅ぼされるってこと?こわ……」
「それが戦争だよ、アニス」
そんなアニスの方を見て、今まで黙っていたフィルは静かに呟く。
そして、窓から離れると仲間たちを見渡した。
「どちらにせよ時間はないよ、二手に分かれましょう。
エンゲーブでの様子を見る班とカイツールで停戦を呼びかける班と」
「……エンゲーブへは私が行くべきでしょうね。マルクト軍属の人間がいないと、話が進まないでしょう」
「わたくしはカイツールへ参りますわ」
「僕はどちらでも構いません。ちょっと考えがあるので」
「ルーク、お前はどうする?」
ジェイド、ナタリア、イオンが言い、ガイがルークへ話を振る。
そして、ルークは静かに目を閉じて、決意したのかガイへと目を向けた。
「……エンゲーブかな。あそこの人たちには世話になったし、気になるよ」
「わかった。なら組み分けはどうしようか。一緒に連れて行きたい奴はいるか?」
「そうだな……」
考え込むように軽く腕を組むルークを見て、フィルは静かに声をかける。
「ルーク、わたしはマルクト軍に状況確認しにいくわ。だから1人で大丈夫」
「でも、フィル…」
「そんなに心配しないで、これでもれっきとした軍人なんだから」
ルークが心配そうにフィルを見るが、彼女は力強く微笑んで見せた。
その笑みに、ルークは仕方なくゆっくりと頷く。
「それじゃあ、俺と一緒に行くのはティアとジェイド。で、ナタリアの方にはガイとアニス、イオン」
ルークが組み分けを決めると、ジェイドが全員を見渡した。
「まずカイツール付近でナタリア組を降ろしましょう。その後、私たちはアルビオールでエンゲーブへ向かいます」
「わたしは、ナタリア達と一緒に降ろしてもらっていいです。ナタリアたちの方にマルクト兵が襲い掛かっちゃいけないし…」
ジェイドに続いてフィルがそう言い、ルークが声を張る。
「それでいい。みんな、行こう」
ルークの声を受け、仲間たちは頷いた。
***
「……さて、と」
ふと振り向けばそこはすでに戦場。
フィルは軍服の上に黒のマントを羽織っていた。
マルクト軍の制服は戦場では目立ちすぎる。
というナタリアの配慮からだった。
【フィルは『隠れし軍人』の称号を手に入れました】
「ナタリアたちのためにも戦争を止めないと……」
そしてフィルは走り出す。
軍本部に行った方が早いことは重々承知していた。
だが、それでもフィルはまずは前線の軍を引かせるのが先決だと思った。
軍本部からの伝達では遅すぎる可能性がある。
「……ナタリア、みんな…信じてるよ」
そして、フィルは腕輪を剣へと変えたのだった。
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