仲間たちと合流、成長







「それじゃあ、いってきます。父さん」


軍服に身を包み、銀の腕輪を装備するとフィルは背後に立っていた養父に笑いかけた。

体調も万全、怪我も全快。

母国の首都へ向かう気力は満タンだ。

だが、そんなきらびやかな微笑みをうかべる養女と違って、グレンはどこかやつれた顔。



あれから、フィルは父にあれやこれやと止められ、グレンが仕事にかかろうとすれば窓から抜け出す始末。
それを捕まえて部屋へ戻して、仕事に戻ると逃げられて…――


さすがにそんな数日を過ごしていたら、いくらマルクトの将校といえど、疲れ果てるだろう…。

おかげで、仕事も仕事にならないままフィルは治癒師の手により回復し、やっと本部への帰還許可が出たのだ。


この慌しい数日間を思い出すと、嬉しいんだか悲しいんだか辛かったんだか、微妙な気持ちになるグレン。


そして、フィルに気をつけて、とグレンが言うとフィルは「はい!」と返事をし辻馬車に乗り込むのだった。











仲間たちと合流と、成長〜崩落編5話〜










辻馬車が止まったのはテオルの森のすぐ近く。

フィルは代金を払うと馬車を降りた。
その先には、緑茂った大きな森。
軍の演習にも使われる為、民間人はあまり来ることは無い。

だが、馬車で遠回りするよりも、森を抜けたほうが早いとフィルは思った為、そこで下ろしてもらったのだ。


街道が森へと続く道を見て、フィルはよしっと意気込むと森へと歩き出した。



森の入り口付近に入ると、出入り口の少し離れた木の下で、軍人とも見えない人々が座っているのが見えてくる。
フィルはきょとんとしながら、そのそばを通りかかろうとしたその時だった――


急に森の中から悲鳴が上がり、それと共に鳥たちが飛び去る羽音が聞こえてきたのだ。


「今のは――」

「―――悲鳴!」


自分の言葉に続けて先を言われ、フィルは驚いてその声の方へと振り返り、目を開いた。


そこには見覚えのある面々がずらっと並んでいて、
さらに、ユリアシティで眠っていたはずの赤髪の青年は長かった髪をばっさりと切りおとしていて、
そして、なぜか自分の目の前に彼らがいる…


「フィル!」

「ど、どうしてここに!?っていうか、ルーク…その髪どうしたの?って、イオン様までいるし……。アッシュは? 大佐は一緒じゃないの?」


ルークが嬉しそうに名を呼んだが、フィルはそれどころじゃない。
まさかいるなんて思わなかった彼らの姿に、頭が混乱してくる。


「挨拶は後よ、ルーク」

「あ、ああ。そうだった、とにかく行ってみようぜ!」


ティアに促されてルークは我に返ると、仲間たちにそう言い駆け出していく。
フィルは、その後姿を唖然と見ていたが、仲間たち走り去ったのを見て慌ててついていった。


森の奥に進むと、マルクト兵が1人倒れていた。
フィルは兵士のそばに駆け寄ると、抱き起こす。


「何があった!?」


抱き起こしながら、フィルは焦る声で兵士に問いかける。
兵士は、彼女の声に聞き覚えがあった為か、傷つく体を無理に動かし口を開いた。


「神託の盾兵が……くそ……」


それだけを言うと兵士は、がくりと体の力を抜いて事切れた。
フィルは悔しさにぐっと拳を握り締めて、兵士をそっと横たわらせる。


「……神託の盾…、まさか兄さん…」

「グランコクマで何をしようってんだ?」

「まさかセフィロトツリーを消すための作業とか?」


ティアに続いて、ルークとアニスが問いかける。
だが、それにイオンが軽く首を振って「いえ」と小さく言う。


「このあたりにセフィロトはない筈ですが……」

「セフィロト…? イオン様、ヴァンは一体何を狙って――」

「話してても埒があかねぇ! 神託の盾の奴を追いかけてとっつかまえようぜ」


フィルがイオンに問いかけようとしたが、ルークがそれを遮った。
その言動にフィルが少し驚いたような表情をするが、仲間たちはそれに頷く。


「そうですわね。こんな狼藉を許してはなりませんっ!」

「待って!勝手に入ってマルクト軍に見つかったら……」


ナタリアの意気込みに、ティアが慌ててそれを止めるが、フィルが首をかしげた。


「大丈夫だと思うけど…、っていうか大佐は? 大佐がいれば、すぐにでも入れたはずじゃあ…」

「入り口にいた兵士がジェイドしか通してくれなかったんだよ。 だから、俺たちはジェイドの帰りを待ってたわけなんだが…。 まぁ、見つからないように隠れて進むしかないな。マルクトと戦うのはお門違いなんだから」


ガイの説明を聞いて、フィルはなるほどと頷く。

自分は元々この道を通るつもりだったし、通れないことなんてないだろうと高をくくっていたのだが…


「かくれんぼか。イオン様ドジらないで下さいね」

「あ、はい!」


アニスがイオンに注意するように言うのを聞いて、ティアが頭を抱えた。


「……いつの間にか行くことになってるわ……。もう……」

「大丈夫大丈夫」

「フィル、貴方もマルクトの軍人なんだから注意してよ!」

「その『マルクトの軍人』が言ってるんだから大丈夫だって。ここは本来軍の演習とかに使われる場所だから、ばれにくい道とか知ってるしね」


ふふん、と腰に手を当てて自慢げに言うフィルに、ティアは本日二度目の溜息をついた。






***







森を走り抜けながらフィルは自分がみんなと別れてからの話を聞いた。
ヴァンの目的は、外殻の崩壊。

それに、今セントビナーの危機が迫っているというのだ。

さらに、モースは戦争の引き金としてナタリアを使おうとし、ナタリアとイオンをダアトに幽閉していたのだという。
それを、ルークたちが助けたはいいが、キムラスカはモースの手の内。

というわけで、マルクトの皇帝ピオニーの力を借りるべくここまで来たルークたち。


「セントビナーが崩壊…か、わたしついさっきまでそこにいたんだけど」


木と木の間を走りながら、フィルがぽつりと呟く。


「でも、あたしたちより遅かったなんて、フィル寄り道してたんだぁ〜?」

「寄り道じゃないよ、ケセドニアに行ったらグランコクマの船は運休してるし、領事館は改装中だしで、色々と大変だったの!」


アニスのからかうような言い方に、フィルはムッとして言い返す。


「それで、まぁセントビナーにも寄ったんだけど…、そういえば兵士が地震が続くみたいなことは言ってたなぁ」

「崩壊の危険性はあるってことか…」


フィルの言葉に、ガイが頷く。


「まぁ、市民を動かすなら陛下の命令が無いと駄目だしね。――大丈夫、陛下なら力を貸してくれるよ、絶対…」


まっすぐに強い眼差しで言うフィルは、どこか誇らしげで。
そんなフィルの表情は、仲間たちを安心させるの最適だった。


「そーれにしても…」


ふと、フィルが話を終わらせてルークを見ると、ルークはきょとんとしていた。


「ルーク…変わった気がするね」

「そ、そうか…?」

「うん、なんていうか少し強くなった…かな?」

「そりゃあ、毎日戦ってたりするわけだから少しは――」

「そういう意味じゃなくて、心が、だよ」


成長するのは早いなぁ、とおばさん心をおおっぴらにし、フィルはにこにこと笑っていた。


「俺、変わるんだ」

「そか…。ルーク、でもね1人で無理しちゃ駄目だよ?貴方には仲間がいるんだから、ちゃんと相談すること!」


ぴっと指を立ててウィンクすると、ルークはふっと口元に笑みをこぼした。
そんな笑みは今までは見たこともなかったぐらい優しい笑みで、フィルは一瞬どきりとする。


「フィルには迷惑かけっぱなしだったからな、俺頑張るよ!でも、…また馬鹿なことするかもしれないからその時は」

「もちろん叱ってあげますとも」


安心して、と笑いかけるとフィルは再び前を見て走る。

もうすぐ出口に着く。
神託の盾が町に入ってしまったのではないかと心配していた矢先、兵士が倒れているのが見えた。


「マルクト兵が倒れてますわ!」


ナタリアが慌てて兵士に駆け寄ったその時だった。
巨体を持つ男が空中から落下してきて、ナタリアに向かって武器を振り下ろす。

だが、それにやられるナタリアではない。
とっさに伸びのいてそれを避けると、ナタリアは弓を構えた。


「お姫様にしてはいい反応だな」

「おまえは砂漠で会った……ラルゴ!」


ナタリアが襲ってきた男の名前を叫ぶと、ルークが前に出た。


「侵入者はおまえだったのか!グランコクマに何の用だ!」

「前ばかり気にしていてはいかんな。坊主」

「え?」


ラルゴに言われて振り返ると、ルークの後ろにいたガイが彼に向かって切りかかってきた。


「ルーク!」


ルークはそのままティアに突き飛ばされ、かろうじてガイの一撃をかわすがガイの行動に驚愕していた。


「ガイ…?」

「ちょっとちょっとどうしちゃったの!?」


ガイはそのままルークへと駆け出して剣を振るう。
それにルークも慌てて剣を抜いて防ぐが、相手がガイでは攻撃するわけには行かず防戦一本になる。


「いけません!カースロットです!どこかにシンクがいるはず……!」

「皆はシンクを探して!わたしはガイとルークを…!」


イオンの叫び声に、フィルも行動に出る。

ルークに加勢しようとして、腕輪を剣へと変えると二人に向かって駆け出すが、ラルゴが横から鎌を振りおろしてきた。
ざっと横に飛びのいてそれを避けて、フィルは体勢を直す。


「俺を忘れるなよ?」

「黒獅子ラルゴ……っ! どうして、マルクト兵を襲った? マルクトに何のようだ!?」


フィルは声を荒げてラルゴへと問う。
いつものほんとした表情で戦闘を繰り広げていたフィル…。
怒りに満ちた声に仲間たちは驚いて、フィルへと視線を向けていた。


「俺たちは導師イオンを必要としている、ただそれだけだ」

「それだけ…それだけのために、罪もない兵を斬ったというのか…!」


ざっと地を蹴ると、一気にラルゴへと駆け出す。

ラルゴもそれに対して構えの体勢を取る。
それでも、フィルは止まらない。


「岩砕剣っ!」


ラルゴの少し前で剣を地面へと振り下ろすと、岩が衝撃で掘り起こされラルゴへと当てられる。
それに鎌で防いでいたが、フィルは次の行動に出ていた。


「真空……―――っ」


相手の目の前まで来ると、剣の突きを目に見えぬ速さで繰り出す。
それもなんとかラルゴは塞いでみるが、押されているのは目に見えていた。


「このっ…小娘がっ!」


ラルゴが鎌を横薙ぎするが、それをよけるためにフィルは真上へと飛ぶ。
そして、体の回転を加えて剣を振った。


「―――っ…千烈破!」

「がはっ!!」


回転と重力が加わった剣はラルゴに命中し、彼は肩膝をつく。
そして、フィルがトドメと動こうとしたその時、激しい揺れがその場を襲った。


「きゃっ、また地震!」


アニスの悲鳴が聞こえる中、ティアは何かに反応して上を見た。


「ナタリア、上!」


ティアが指示した方向にナタリアは待ってましたと弓を放つ。
矢は木の上に飛び、「ぐっ」というこもった声と共に、何かが落下した。


「烈風のシンク……」


フィルがそれに気を取られると、再びラルゴに鎌を振られ、バック転でそれをかわす。
そして、ルークに攻撃を繰り返していたガイだったが、腕のカースロットが赤く光り気を失って倒れた。


「…………地震で気配を消しきれなかったか。アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが……大した生命力だな」

「ぬけぬけと……!街一つを消滅させておいてよくもそんな……!」

「はき違えるな。消滅させたのはそこのレプリカだ」


シンクの言葉にナタリアが激怒し声をあげるが、シンクは鼻で笑いルークをあごでしゃくった。
そして、そんな中物音を聞きつけたのかマルクト兵の足音と声が聞こえてくる。


「ちっ、ラルゴ、いったん退くよ!」

「やむをえんな……」

「待て!」


去っていくラルゴとシンク。
それを止めようとフィルが動こうとしたが、それと入れ替わるようにマルクト兵が現れた。


「なんだお前達は!」


マルクトの兵士が警戒して声をあげると、ティアは兵士を前に冷静に口を開く。


「カーティス大佐をお待ちしていましたが、不審な人影を発見しここまで追ってきました」

「不審な人影?先ほど逃げた連中のことか?」

「神託の盾騎士団の者です。彼らと戦闘になって仲間が倒れました」

「だがおまえたちの中にも神託の盾騎士団の者がいるな。……怪しい奴らだ。連行するぞ」


マルクト兵士がルークたちを囲むが、1人の兵士がフィルに気付いてハッと動きを止める。


「あ、貴方は…―――」

「アイラス少佐…!?」


ただ、だんまりと森の奥を見つめていたフィルに兵士たちが驚きの声をあげながら敬礼をする。
そして、フィルはゆっくりと振り返ると、ルークたちに歩み寄った。


「……彼らは私の友人です。拘束はいらない」

「しかし…――」

「私の言うことが信じられないというの? 彼らは神託の盾(オラクル)の襲撃に対して、そして傷ついた兵士達を介抱した。あれだけ物音がしたというのに、誰一人気付かず、同胞を見殺しにした貴方達が彼らを疑う権利がどこにある?」


静かな声でそう言うと、兵士達はうっと言葉を詰まらせながら顔を見合わせる。
だが、フィルはそれ以上彼らを責めはせず肩の力を抜いた。


「あくまで客人として扱いなさい。それと、誰かその人に手を貸し――」


倒れているガイを運ぶ指示を出そうとしたが、ルークがすでにガイを背負っていた為、フィルはふっと苦笑した。


「なんでもありません。では、グランコクマへ参りましょうか?」


兵士達の警戒心を解かし、フィルは兵士達に命令を出すと一斉にグランコクマへと歩き出した。



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