魔界(クリフォト)の海を渡れば、そこには海の中に一つだけ大きな建物が立っていた。
周りは上空より滝のように水が流れ落ち、まるでその建物を守っているかのよう…
「あれが、ユリアシティ…―――」
ぽつりと呟いたフィルの言葉に、ティアが静かに頷いた。
「ふぇ……!これがユリアシティ?」
タルタロスで町に上陸すると、皆が辺りを見ながら降りてくる。
アニスはその中を率先するように駆け出すと、感嘆の声を上げた。
ティア以外の仲間達は見たことのない材質で作られた街を見て、はぁと小さな息をつく。
ガラス張りのドームで覆われており、一つ一つの建物ではなく、たった一つの大きな建造物自体が街となっているようだ。
さらに、空は外殻とは違って、瘴気のもやのせいで紫色に染まっていた。
「ええ。奥にお祖父様が…市長がいるわ。行きましょう」
ティアが仲間たちを促すと、皆が中央の大きな塔に向かって歩き出す。
フィルは、歩き出さないルークの肩を軽く叩くが、ルークは動く気配が無い。
「ルーク、皆行っちゃうよ…?」
静かに声をかけてみるが、ルークはそっぽを向いたまま答えない。
あの後、タルタロスの中では険悪な雰囲気は薄れることもなく、またルークも仲間たちも出来るだけ顔を合わせないようにしていた。
それをどうしようかと、間に入ってみたりはしたものの、どうやらすぐに解決するような生易しい問題ではないようで…
フィルは眉尻を下げて困ったように微笑みかけるが、ルークは足を踏み出さなかった。
「……いつまでそうしているの?みんな市長の家に行ったわよ」
「……どうせみんな俺を責めるばっかなんだ。行きたくねぇ」
そうフィルが悩んでいると、ティアが1人だけ2人の方へ戻ってきたようだが、ルークはふてくされたような声で、ぽつりと言い返す。
その瞬間―――
「とことん屑だな!出来損ない!」
聞いたことのある声に、ルークは目を見開きフィルとティアは驚いて声の先を見る。
そして、やはりその向こうには眉間に眉を寄せたアッシュの姿があった。
「……お、お前!どうしてお前がここにいる!師匠はどうした!」
「はっ!裏切られてもまだ『師匠』か」
「……裏切った……?じゃあ本当に師匠は俺にアクゼリュスを……」
「くそっ!俺がもっと早くヴァンの企みに気付いていれば、こんなことにはっ! ―――お前もお前だ! 何故深く考えもしないで超振動を使った!?」
「お、お前まで俺が悪いって言うのか!」
「悪いに決まってるだろうが!ふざけたことを言うな!」
アッシュの批難の言葉に、ルークはハッと傷ついた表情をしてぐっと唇をかみ締めた。
「俺はっ……俺は……っ!」
「冗談じゃねぇっ!レプリカってのは脳みそまで劣化してるのか!?」
ふとアッシュのある一言に、フィルが目を見開いた。
「レプリ……カ?」
「そういえば師匠もレプリカって……」
ルークがぽつりと呟いたのを聞いて、フィルはまさかと脳裏に浮かび上がった言葉を思い出した。
――昔、まだ軍に入ったばかりの頃聞いたことがある。レプリカ……被験体から音素情報を抜き取り、全く同じものを作り出す技術。そして、それは…人間に使うことをマルクト皇帝ピオニーV世が『禁忌』としたと…――
「……もし…かして、ルークは…」
「はっ、そこの女は気付いたらしいな」
「な、なんだ……!何なんだよ!」
ルークが意味が分からなく悲鳴に近い声で問い返す。
そして、アッシュは口端をあげて相手を嘲るように笑みながら静かに言った。
「教えてやるよ。『ルーク』…俺とお前、どうして同じ顔してると思う?」
「……し、知るかよ」
「俺はバチカル生まれの貴族なんだ。七年前にヴァンて悪党に誘拐されたんだよ」
ルークはまず己の耳を疑いたかった。
アッシュが言ったその昔は、『誰』かと全く同じだったからだ。
すべてを理解したルークは、顔を青ざめ信じられないと恐怖で顔がこわばる。
「……ま……さか……」
「そうだよ!お前は俺の劣化複写人間だ。フォミクリーで作られた、ただのレプリカなんだよ!」
「う……嘘だ……!嘘だ嘘だ嘘だっ!」
すべてを否定したい。
アッシュの言っていることは全て出鱈目だ。
そう心のうちから声にして叫び、ついに腰の剣に手を伸ばし抜いた。
それに、アッシュはふんっと鼻で笑うと同じく剣を抜く。
「……やるのか? レプリカ」
「嘘をつくなぁーーっ!」
叫び声と共に、ルークはアッシュへと斬りかかった。
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