鉱山の崩落
デオ山脈をくだり、街道を少し歩くとそこはもう鉱山の町。
山を削った中に出来た町で、普段は鉱夫たちの賑やかな声や山を削る音などが響き、活気の町である。


そう………『普段』は……










「何……これ……」

「想像以上ですね……」


アグゼリュスについた瞬間、愕然とするフィルの傍で流石のジェイドも動揺していた。
町全体に紫色のもやがかかり、人々があちこちに倒れていた。

死んで…はいないだろう。
うめき声をあげているものや、生気のない瞳で虚空を見つめているものもいる。

そんな中、ナタリアが一人の鉱夫に駆け寄った。


「お、おい、ナタリア。汚ねぇからやめろよ。伝染るかもしれないぞ」


さすがにそれはまずいだろう、と言いたげにルークがそう言うが、ナタリアは唖然とした表情をして言い返した。


「……何が汚いの?何が伝染るの!馬鹿なこと仰らないで!」


ルークを諌めると、すぐにナタリアは鉱夫へと向き直り、「大丈夫ですか?」と声をかけながら癒しの光を当てる。

すると、一人の鉱夫がフィルたちの方に歩いてくると声をかけた。


「あんたたち、キムラスカ側から来たのかい?」

「あ……あの……」


ルークは何を言うことも出来ず、もごもごと口ごもる。
が、ナタリアが立ち上がると男へと口を開いた。


「わたくしは、キムラスカの王女ナタリアです。ピオニー陛下から依頼を受けて皆を救出に来ました」

「ああ!グランツさんって人から話は聞いています!自分はパイロープです。そこの坑道で現場監督をしてます。村長が倒れてるんで、自分が代理で雑務を請け負ってるんでさぁ」

「グランツ謡将と救助隊は?」


ジェイドが歩み寄り訊ねると、パイロープが「ああ」と思い出したそうに話し出す。


「グランツさんなら坑道の奥でさぁ。あっちで倒れてる仲間を助けて下さってます」

「この辺はまだフーブラス川の障気よりマシって感じだな」

「坑道の奥は酷いらしいよ」


ガイとアニスが聞き込みが終わったのか、仲間達へと駆け寄ってきた。
その結果を聞いて、フィルの眉が顰められる。


「……坑道の奥にも…まだ取り残されている方がいるってことですよね」

「ええ、まだこの辺りは問題ないですが……、病室ではマルクトから来た看護士さんがたった1人で診てくれてる状態で…。ここに運ばれた奴らの世話もしなきゃならねぇが、取り残された奴を助けに行く奴もいる。つまりは、まったく人手がたりねぇ状態でさぁ」


パイロープの言葉に、全員が顔を見合わせると重々しく頷く。

そして、


「アイラス少佐」

「はっ」

「我々は奥の方の救助へ向かいます。貴方はここに残り、町の人の避難を」

「分かりました」


ジェイドの命令口調に、フィルは静かに返事をする。
だが、仲間たちは心配そうにフィルを見ていた。


「フィル…」

「みんな、気をつけて。中はここよりも瘴気が強いらしいから」


強い眼差しで仲間たちにそう言うと、フィルは軽く頭を下げて病室へと駆け出していった。


「さ、俺たちも行こうぜ」

「あ……、ああ……うん……」


ガイの言葉に、ルークは歯切れの悪い返事をすると、そのまま坑道の奥へと駆け出していった。






***




一人一人少しずつ町の外へと避難をさせていく。
だが、ここにいる兵士といえば本当に少数だ。

たまたまマルクト側からここへくることが出来た者ばかりで、人手が少ないのは目に見えて分かる。

それでも、助けなければいけない。
諦めてはいけない。


また一人運び終わると、フィルは小さく息をつく。
汗を袖でぬぐうと、もう一度町内部へと戻っていった。

すると、どんっと誰かにぶつかりフィルはきょとと目を瞬かせる。


「子供…?」

「こら、ジョン!」


自分にぶつかったのは少年だと分かると、奥からパイロープが慌てて出てきた。


「パイロープさん」

「すみません、こいつぁ俺の息子です。自分はエンゲーブからの単身赴任なんですが、間の悪いことに息子が遊びに来た日に障気が出ちまって。息子を無事帰さねぇと気が気じゃないんでさぁ」

「そう…でしたか」


父と遊ぶことを楽しみにしていたのだろう。
少年はパイロープに引き寄せられると、父親のズボンを握り締める。

フィルはそんな少年の前でしゃがみこむと、彼より同じくらいの目線になった。


「君の名前は?」

「……ジョン…」

「そっか、ジョン君は今いくつかな?」

「馬鹿にするな!おいらはもう6歳だぞ!?」

「あはは、ごめんごめん。うん元気が良くてよろしい」


フィルがぽんぽんと頭を撫でるが、パイロープはその様子におろおろしている。
少し青ざめているのは気のせいだろうと思っていると、背後から「少佐」と声をかけられて立ち上がった。


「何かあった?」

「いえ、その……瘴気が思った以上に酷く、避難が難航しています…」

「そう……」


兵士の報告に、フィルは顔をしかめる。
本来なら病人と女子供優先の救助だ。
だが、今はもっとも危険な重症患者を運んでいる最中になる。

フィルは、兵士から視線を外しジョンとパイロープ親子へとむける。

ジョンがパイロープに家に帰ったら何がしたい、と笑顔で話しているその姿は微笑ましい。


そして、一度考えるように視線を右下へと下ろすと、静かに口を開いた。


「……重症患者は諦めましょう。今は女子供を優先で」

「しかし…っ!」

「責任は私が取ります。瘴気が薄れたところといっても、ここから少し離れたところでは意味がない。長く持ちそうのない者より、今後…未来のある者優先なさい」

「………分かりました」


兵士は悔しげに返事をすると、再び持ち場へと戻っていく。
その姿を見て、フィルはぎゅっと拳を握り締めた。


「(仕方がない…だけじゃ済まされないよね)」


自分は命の選択をした。

そんなもの…出来る様な人間じゃない。

でも、ジェイドは坑道の奥にいて、今ここに居て指示が出来るものは自分だけ。
だったら―――


「(腹括るしかないでしょ)」


フィルは顔を上げると、ジョンの下へと行く。


「パイロープさん、ジョンを外へと避難させますがよろしいですか?」

「ええ、もちろん。お願いします」


パイロープにジョンを差し出されて、フィルはぎゅっとジョンの手を握る。


「今から、私と一緒に外に行くよ。お父さんはその後だけど、……男の子だから我慢できるよね?」


そう静かに問いかけると、ジョンはパイロープとフィルの顔をしばらく交互に見ていたが、ぎゅっと唇をかみ締めて、フィルを見ると強い眼差しで頷いた。


「君は、強い。大丈夫、お父さんも君も絶対助けるから」


眉を下げて苦笑しながらそう言うと、フィルはジョンの手を引いた。
ジョンはパイロープを振り返り小さく手を振ると、パイロープも手を振る。

そして、そんな親子を見ながらフィルは一歩足を出した――――















その時だった。

















ぐら……








「え?」

















ピシッと地面に地割れがおきて、周りが大きく揺れている。

そして、轟音と共に揺れは計り知れないくらい大きくなり、壁が崩れだす。


人々はそれに驚き悲鳴をあげ、そして崩れ落ちていく町と死ぬという直感に…



その場に崩れ落ちたという。














***






「あ……」

「どうしたんだ?アスラン」


グランコクマ、ピオニーの自室でフリングスはピオニーが書いた書類を整理していた。

すべて皇帝のサインをもらい終わり、整えていたのだが何か違和感を感じてフリングスは
軍服のポケットに手をいれる。


中から取り出したのはフィルからもらったキャパシティコア。
刻まれていた彫りに斜め一線の深い傷が出来ていた。


「なんで急に…」


フリングスがぽつりと呟くと、慌しい足音と共に皇帝の部屋は勢いよく開けられた。


「陛下!」


叫びながら入ってきたのは、一人の兵士。
息を荒げながら現れた彼に、ピオニーとフリングスは驚いた。


「何事だ騒々しい。ここはピオニー陛下の自室だぞ」


フリングスが険しい声で兵士に注意するが、ピオニーは「まぁまぁ」とフリングスを宥める。


「その様子じゃあ、形式張った状況での報告で出来るようなものじゃないんだな?―――何があった…?」


いつものお茶らけた様子とは違い、ピオニーの皇帝の顔に兵士が「はっ」と姿勢を正す。


「アグゼリュスが、鉱山の町アグゼリュスが崩落いたしました!」

「……崩落?どういうことだ…?」

「言葉通りです。大きな穴を空け、町はまるでその場に無かったかのように消えたのです。町へと遠征に行っていた兵士や軍医達、そしてカーティス大佐たちも行方不明と聞いております!」


それを聞いた瞬間、フリングスとピオニーはハッとキャパシティコアへと目をやった。


「……ジェイドたちが…行方不明…」


ピオニーが震える声でそう言う。

フリングスがコアを両手で握り締めて、祈るように呟いた。


「…………フィル…」














●外殻大地編 END●

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