再会したのは

 踊ると決めて早数刻。神社の宮司さんに許可をもらって、わたしは一人で神社にいた。神楽の傾向を知らなければ、それに合った舞が出来ないからだ。最初申し出た時は、宮司さんに泣いて喜ばれたっけ……。でも、いなくなった巫女の千歳さんのことを凄く心配もしていた。いなくなった女の子は帰ってきたことがないだけに、宮司さんの心労は計り知れない。
少しでも力になれればと、わたしは神社の歴史を読み解くために図書室にあった和綴じの本を開く。よくよく考えれば、こういうことしなきゃいけないし伊之助くん連れてこなくて正解だったかも。わたし一人でここに残ることに、流石に炭治郎にも反対された。ただ神聖なる場所なだけに、巫女の代理人であるわたしと男の子を共にすることは出来ないと宮司さんに言われたのだ。
そこで一つ名案が浮かんだのだが……

「なんで俺がこんなもん着なきゃいけねぇんだよ!」
「お前が一番それっぽいだろうが! あ、着物脱ぐんじゃねぇ!」

 伊之助くんの猪頭を外して女物の着物を着させようとしたが、伊之助くんの嫌がり方が半端ない。善逸くんが必死に止めようと伊之助くんと格闘しているのを、わたしは荷物をまとめながらはらはらと見守っていた。確かに伊之助くんは被り物を取れば、それはまぁ可愛らしい女の子だけど、言動とかは大丈夫じゃない気がする…。

「そもそも、こんなもん着てたら感覚が鈍って仕方ねェっ!」
「俺だって出来るなら代わりたいわ! だけど顔を覚えられてんだから仕方ないだろ!」

 善逸くんが血の涙を流しながら言い切った。けど、伊之助くんが頷く可能性は低いだろう。あ、ついに着物破った。これは絶対に無理だ。炭治郎が借り物の着物を破られた瞬間を見て、借り物を粗末に扱うなと二人にげんこつを落とした。

「やっぱり無理だよ、炭治郎。わたし一人でなんとかするから大丈夫だって」
「でも、万が一ってこともあるだろ?」
「その時は、この子を飛ばすよ。だから、炭治郎たちは他の可能性も考えて欲しいの」

 わたしは心配かけないようにと、肩に止まる鎹烏の背を撫でながら言った。鬼が狙うのは巫女だけとは限らない。もし他の所で同じようなことが起きた時に、一か所に固まってるのでは間に合わないのだ。わたしの気持ちを察してくれたのか、炭治郎は仕方がないと眉を下げて頷いてくれた。

「分かった。何かあったらすぐに烏を寄越してくれ。善逸もそれでいいな?」
「ううっ……、心配だよぅ」

 炭治郎に殴られたところが痛むのか、善逸くんは頭を両手で抱えながらうめく様に言う。痛むだろうそこを撫でてやりながら、わたしは善逸くんと視線を合わせた。

「じゃあ、神楽が終わったら迎えに来てくれる?」
「もちろん! 絶対に迎えに行く!」
「お祭りも一緒に見て回ろう?」
「うんうん! 一緒に行くよぅ!」

 痛みも忘れて背筋を伸ばし、ころっと態度を変えた善逸くんに伊之助くんと炭治郎が呆れた視線を向けているのもわたしは気付かないことにした。

「あいつ、本当に甘ぇ……」
「そういうな伊之助。善逸に関しては鈴の方が扱いが上手い……」

 何か誤解されてる気がする。でもそこは敢えて追求しない。善逸くんの機嫌が直ったところで荷物もまとめ終わると、わたしは宿を後にした。

 とは言うものの……

「やっぱり一人は不安だなぁ……」

 つい先ほどまで賑やかだっただけに、これは寂しいものがある。最初から一人任務だと分かっているときと違って心細さは酷い。和綴じ本を閉じて本棚にそっと本を戻して、わたしは一人ぼやく。そのまま図書室を出て行こうとすると、ふと奥から物音がした。

「っ、誰……?」

 暗闇から聞こえた音にわたしは思わず息をひそめた。日輪刀は荷物の中だ。隊服の懐に鉄扇は一つだけ。この部屋には気配は一切なかった。一体何がいるというのか。わたしは懐の鉄扇に手を伸ばしてゆっくりとその気配に近付いた。でも、そこにいたのは……

「………、あねうえ……?」

 色白の肌にわたしと同じ深い青緑の髪。わたしを見つめるその瞳は、海と風を現したような翡翠色。わたしを「姉」と呼ぶそれは、幼いころの面影がしっかりと残っていた。でも、そんなはずはない。生きて、いるはずがない……。だって、あの時、あの子も……

「大和……、なの?」

 一縷の望みとそれを否定したい気持ちが、問いかける声を震わせる。だけど、それは昔と変わらない無邪気な笑顔を向けてしっかりと頷いた。
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