転校生は何処へ





今日は新しいプロデューサーが来る日。一体どんな子か楽しみにしていたけどその子は昼休みになっても現れなかった。クラスは2-B。朝のHRで佐賀美先生に転校生の世話よろしくと任されたのは良いけど肝心の転校生はいなかった。昼休みになってもいないので佐賀美先生に聞きに行くと―――



『ん?今朝来てたぞ。なんだ?いないのか?』



今朝此処に来て、教室に向かったと言われた。私の疑問はますます強くなり、色んな人達に先生から聞いた転校生の特徴を言いながら聞いても誰も見ていないと言う。消えた謎の転校生…どこに行っちゃったんだろ…。今日一番に会ったスバルくんに「あんず以来の転校生じゃん!どんな子かすごく楽しみなんだ!」と言われ、一緒に隣のクラスに行って転校生がまだ来ていないと聞いた時は二人揃って落ち込んだ。今日は月曜日だから『Trickstar』のレッスンの日。放課後になったら真緒くんに転校生を見ていないかもう一度聞こう。真緒くんも気になって探していたから。

校舎の中を探し回ったから喉が渇いて自動販売機に近付くと右の方から、今にも花が飛び出してきそうな程上機嫌な日々樹先輩がくるくる回っていた。

北斗くんや友也くんならきっとスルーしたであろう光景に私は近付いた。



「こんにちは日々樹先輩」

「Amazing!あんずさんでしたか。ふふ、私は今人生に何度もない程の喜びに溢れているのです!そう!正に今が喜びの最盛期!!」



普段よりも更にパワーアップした日々樹。とっても良い事があったんだ。気になって聞いてみたら、今は言えませんと返されてしまった。疑問がありありと顔に出ていたのか日々樹先輩は答えてくれた。



「あちらの事情もあるものでしてね。そうペラペラと喋ってしまってはあちらに嫌われちゃいます。本当なら、この幸せをあんずさんや可愛い後輩達は勿論、零や奏汰、宗や夏目くんにも分けてあげたいぐらいです!それだけ!―――嬉しい事なんです」



全身から喜びに満ちたオーラを放ちながらお決まりの台詞を叫びながら去って行った日々樹先輩を見送り、あんなに嬉しくなる程の事が何なのかすごく知りたくなった。私は爽健美茶を購入し、さっきの日々樹先輩の話を北斗くんにしようと教室に戻った。



「(でも…本当に転校生はどこへ行ったんだろ…)」



―――後に、行方不明扱いになっている転校生こそ日々樹先輩の大喜びの理由だと知るのは暫く経った後だった。





*******



暇だやる事がない暇だと連呼したらうるさいと一喝された。夏見の首に嵌められた黒いフワフワな生地が施された首輪は細い鎖で繋がれており、室内を移動出来る範囲の長さしかない為外に出れない。両手首にも同じ施しがされた手錠。痕をつけたがらない彼なりの配慮だがちっとも嬉しくないし、大体誰かに繋がれたい願望はない。



「うるさいのだよ」

「何にも言ってない」

「君の目がうるさいのだと言っている」

「目がうるさいってどういう事!?」



千切ったクロワッサンを話している相手に食べさせてもらい、更にミネストローネを食べさせてもらう。ギャーギャー騒いでいる夏見は勝手に人の膝を枕にして寝ている零と首輪と手錠のせいで身動きが取れない。昼休みが始まった途端この部屋に夏目と入れ違いで来たのが宗。どうやら、零と夏見の喧嘩(一方的に怒っている夏見を零が相手してるだけ)を止められるのは宗しかおらず、クロワッサンを買った帰りに夏目が見つけ、一年ぶりに戻ってきたのを知らせると『秘密の部屋』まで飛んで来たのだ。

宗を見るなり零は呑気に手を振り、一日で全員にバレるのは確実だと悟った夏見は珍しく驚いている宗にぎこちないながらも「お、お久しぶりー…」と零と同じく手を振った。そして、未だ固まった宗と距離が出来た零から逃げるのは今しかない!と窓から逃走を図るが我に返った宗に捕まり繋がれた。



「ん…ごく。うん、ご馳走さま。…で、あの、しゅうちゃん」

「気持ちの悪い呼び方はやめたまえ」

「え〜?最初は『しゅうちゃん』って呼んでたけど。…あれ?じゃあ何時から呼び捨てになったんだろう」

「…君の記憶力の悪さに付き合うつもりはないが君が僕をそう呼ぶときは大抵茶化している時ぐらいで、後は呼び捨てだったよ」

「そうだっけ?どーでもいいから忘れちゃったのかな」

「……」



言葉通り、心底どうでも良いと言ってのけた態度。あの日壊された彼女の心は治っていなかった。人の悪意によって粉々に砕けた心の欠片を必死に掻き集めてもまたサラサラと掌から落ちていき、二度と修復出来なくなった。



「…ってか、零!足痺れてきたきたからいい加減退いて!寝るなら棺桶で寝ておいでよ!主に零のせいで教室行けなかったし…」

「ふん、勉強なんかやってられるかと言って授業中フラフラ学院内を歩き回って問題を起こしていたのは誰だったかな?」

「う…宗が意地悪を言う…。事実だけに反論できない…」



痛い所を突かれ、項垂れるも零の頭を柔らかい床に移動させて足を伸ばした。今回は飽くまでも『プロデューサー』。あの時とは違う。授業は真面目に受けるし、問題行動も起こさない。と、宗に言っても前科者が何を言っても説得力が無いと一蹴されて落ち込んだ。





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