初日で(五人)達成




―――一体君は何処から来て、何をして、何処へ消えたんだい?


夢ノ咲学院が混沌と化していた一年前、一人の生徒が消えた。

常に仮面で素顔を隠していた謎の生徒。皆彼を『怪物』と呼んで恐れていた。後に『臆病者』のレッテルを貼られた彼が何者で、何処から来て、何をして、何処へ消えたのかは誰にも解らない。彼を心底大事にしていた『五奇人』以外は…。



―――あの時も、今も、羨ましくて仕方ないよ。君を独占して愛していた『五奇人』が。『五奇人』に大切にされて愛されていた君が…

―――君は僕が憎いだろうね…でも…僕も君が憎い。そして…それと同じぐらい愛している。



何故あの時舞台に姿を現さなかったのか。代わりに舞台に上がった朔間零が彼の棄権を申し出た事により勝負をする必要もなく勝敗は決した。零はそれだけを伝え舞台から降りた。逃げた『怪物』は『臆病者』のレッテルを貼られた。



―――憎く愛しい僕の『怪物』…君は今何処にいるんだい



生徒会の会長だけしか座る事が許されていない席にて、嘗て暴虐の限りを尽くし学院に平和と秩序を取り戻した『皇帝』は、今日から来る新しい『プロデューサー』がどんな子か楽しみにし、同時に―――『怪物』と恐れられた彼を思い出していた。






********



「いつまで拗ねておるんじゃ。ほら、我輩のとこにおいで」

「拗ねるし行かないし。誰のせいだと思ってんの」



結局昼休みも終わり、今は5時間目の授業が始まったばかり。昼食は宗が食べさせてくれたお陰で食いっぱぐれる事は無かったが教室にはまだ行けてない。眠そうにしながらおいでおいでと手招きする零をジトリと睨んでそっぽを向いた。

首輪と手錠はされたまま。首輪から伸びている細い鎖は零が持っている為に逃げも出来ない。



「おいで。よしよししてやるから」

「嫌だって言ってんの!日本語通じてる!?」

「国語だけ一桁の点数を取るお主よりかは得意じゃぞ」

「うるさいよ」

「やれやれ、しょうがいないのう我輩の可愛い『怪物』は。甘やかし過ぎた覚えは…ありすぎる」

「………私は零に殺されかけた覚えしかない」

「可愛いかったからの。加減が分からなくなったんじゃよ」

「何の話してんの」



夏見と零の会話の内容が合わないのは『一年前』でも同じ。話すだけで疲れる相手は他にもいるがその中でも零が断トツだ。

鎖をくいくいと引っ張られ仕方無く近付いた。小さな体を抱き上げた零は自身の膝に乗せて腕の中にすっぽりと収めた。



「昼間…起きてるの辛くないの?」

「後でちゃんと寝る。その前に少しでも長くいたいんじゃよ」

「零…」



今でこそ穏やかな好好爺な零だが一年前は、俺様口調で横暴な所があった。『生徒会』とやり合っていく最中(なか)零は日に日に弱っていた。元々、普通の人間とは違う時間の中でしか生きられない零が陽がある内から動くのが無理だったのだ。



「(皆壊れた…あいつのせいで…あの憎たらしい『皇帝』のせいで…)」



5人を『五奇人』と名付け悪役にして壊したのも、血塗れになりながらも必死に『Knight』を守った『王さま』を壊したのも全部―――『皇帝』のせいだ。

なのに、



『見てよ―――、こんな所に子犬がいるよ』

『飼い主が見当たらないな…捨て犬か。可哀相に』

『意外だな』

『何が』

『君は動物は嫌いだと思ってたよ』

『それ誰情報?虫以外は基本好きだよ。おいでわんこ』



過去の記憶と少しの情が邪魔をして黒く染まらない。灰色の形で保っているものがずっと心の奥底にあった。



「我輩より、夏見の方が眠そうじゃが?」

「ん…」



零が一定のリズムを保って背中を撫でてくるものだから眠気が強くなって仕方ない。

いいよお眠り。

そう言った零の言葉に頷いて眠ろうとしたら―――出入り口の扉が勢い良く開かれた。眠気は吹き飛び何だ何だと思えば雛菊が視界一杯に広がった。



「うわっ!?」

「驚きました?あなたが戻ったと聞いた私はあなたの百倍は驚きました!Amazing!」

「出た…本当に1日でバレた…」



これなんて伝言ゲーム?驚きのあまり零を突き飛ばしてしまい、勢い余って床に頭をぶつけた夏見だが変人の代表格ともいえる彼の登場で他にも知り合いにバレるのは時間の問題だと悟ったのだった。





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