待ち焦がれた存在




あの日から一年が過ぎた。一秒一秒、時間の流れが恐ろしく遅く感じる時もあれば、あっという間に過ぎ去る時もあった。『皇帝』の思惑によって陥れられた五人の天才達は、かけがえのない固い絆で結ばれていた。後に『五奇人』と呼ばれる様になった彼等には大切な存在がいた。ある理由で夢ノ咲学院に在籍していた一人の生徒の存在は大きく、一年後いなくなった後でも無意識にその生徒を求めていた。決して叶う筈の無い夢だと思っていたのに…夢は叶った。

今、真っ白な部屋の中で一人の少女を組み敷く零は待ち望んだ存在に歓喜していた。『吸血鬼』の彼が朝から起きているのは奇跡に近いのだが、友人の深海奏汰が零が根城にしている軽音部の部室に来て、棺桶の中で眠る零を叩き起こし伝えたのだ。「かえってきましたよ、あのこが」それが誰か分からない程老い耄れてはいない。奏汰の言葉で飛び起きた零は廊下を走った。何処にいるかも分からないのにそこに行けば会えると感じた。求めていた存在は2-Bの教室に入る直前で…零はその子に声を掛け、人拐いの如く連れ去りとある部屋に入った。



「会いたかったぞ我輩の…我輩達の可愛い『怪物』よ。此度はえらく可愛らしい姿をしておる」

「んっ、んん、れ、い…」



―――恨むよかなちゃ〜ん…!



零に即行で自分の事を知らせた奏汰に心の中で恨み節を言っても絶対に届かないし、きっと本人に悪意はない。カーテンが締め切られた室内は薄暗く、有無を言わさず人を拐ったかと思いきや、組み敷かれキスをされる始末。今が夜じゃなくて良かったと心底安心する。夜だったら確実に抱かれていた。うっとりと微笑み、飽きもせず何度も口付ける零の背に腕を回し、終わるのをひたすら待った。

キスが終わった頃には顔中に体温が集まり、呼吸がままならない。それでも零にしっかりと抱き付いてた。一年ぶりに感じた零の温盛と香りは全然変わっていない。隣に寝転んだ零に抱き締められても腕はしっかりと背に回されていた。



「本当に会いたかったぞ…夏見」

「零…」

「深海くんのあの様子からして、後の四人にも伝わっとる頃じゃのう」

「…。…夏目はもう知ってるよ」

「おやおや、相変わらず逆先くんだけには甘いのう」

「そうじゃなくて、」

「?」



受付で一悶着あったのを夏目のお陰で切り抜けたのだと話すと零はそうかそうかと、銀の頭を優しく撫でた。



「(何で来て早々こうなるかな…あ、夏目に会った時点で既に終わってたのか。でも、夏目がいなかったら校舎に入れたか怪しいから……もうどうでもいいや)」

「ふあ〜あ…お主がいると聞いて全力疾走したから今になって眠気が来たわい」

「なら部室で寝てなよ。今回は『プロデューサー』として来たから、初日の遅刻はしたくない」

「…駄目じゃよ、我輩の隣にいておくれ」

「零、」

「やっと帰ってきた可愛い『怪物(ペット)』を俺が逃がすと思うか?」

「…」



―――なずちゃんへ、零の素が出るタイミングを教えてください



顔を近付けてきた零にまたキスされる中、スカートのポケットにある携帯を使って後でなずなにメールをすると心に誓った夏見であった。





<< >>
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -