連行されました |
びしょびしょのままでは目立つ上に教室には行けない為、予め事情を話し頼りがいがあるとは言い難いけども信頼の置ける保健教師にタオルを借りた。ボサボサの頭に無精髭、染みが少し目立つ白衣は一年前と何も変わらず。はぁ〜とやる気のない深い溜め息を吐いた佐賀美陣―さがみちゃんに夏見がおじさんくさいと言ってもおじさんだからとどうせ言い返される。 「タオルありがとねさがみちゃん」 「お前さんといい明星といい、一応は教師なんだからちゃん付けはすんな」 「もうちょっとまともになったら考えるよ」 「否定はしないな」 「しなよ。…さがみちゃん、消えた生徒さんについてなんか知らない?さがみちゃんだけが知ってる」 「言われてもなあ…情報収集なら放送委員を頼ってみろ。確か今は二兎が委員長してる」 「もう頼った」 「じゃあ後は自力で頑張れ」 相変わらずな態度にやっぱり溜め息が出た。が、懐かしい。なずなと久し振りに連絡を取り合った時もこんな気持ちだった。 念の為にと用意していた制服に着替え、濡れた制服は帰りに取りに来ると告げ、事件が解決するまでの間生徒として世話になる2-B組へ向かった。あの時は何組だったか、同じクラスには確か『殿さま』と呼んでいた友人がいた。彼を知る者は皆『王さま』と呼んでいたしが彼がそう呼ばれるのを嫌がったのだ。 「(復学して早々に『ジャッジメント』をしたって聞いた時は驚いたな。しかも面子がなずちゃんくろうちゃんとあの『皇帝』)」 『王さま』がどうして『皇帝』を助っ人に選んだのか 『皇帝』がどうして『王さま』に力を貸したのか 「(考えれば考えるだけ面倒。バレない様にするのが苦労なんだよなあ…)」 一人悶々と廊下を歩いていれば「ねえさン」と呼ばれた。自分をこう呼ぶ知り合いは一人しかない。 「夏目」 「会った時から思ってたけどその眼鏡は無いヨ」 「いいんじゃんか。昭和の漫画に1人や2人いそうな感じでしょ」 「ねえさんが真面目にやっても誰もねえさんにプロデュースは頼まないと思うけド?」 「分かってるくせに。そっちの方が都合がいいって」 「まあネ」 飽くまでも潜入捜査、早期解決。プロデューサーとしての仕事をしつつ捜査をするのが仕事だ。これでいいんだよと言えば、 「じゃア、何かあったら必ず連絡しテ」 「分かった。夏目も私に頼み事があったらちゃんと連絡してね。何でもするから」 ******* 夏目の不満げな顔に笑いつつ別れ、予め貰っていた資料を思い出す。2-Bには確か、零が大好きなわんこちゃん、宗が大好きなみかちゃん、苦労人な真緒ちゃん、零の弟くんとなるあらくん、後知らない人一名。『怪物』をよく知るのはわんこちゃんにみかちゃん、後可愛い後輩真緒ちゃんである。 「(弟くんとはあんま関わり無かったんだよね…まあ、当時は零達以外の相手をしてる隙が無かったしね)」 2-Aには夏目、ひーくん、スバルちゃん、プロデューサーさん、せないずくんお気に入りの眼鏡くん、ニアニスくん、よく知らない人が一人。ひーくんには一年前とてもお世話になったから、あまり巻き込みたくないな。夏目は勿論、スバルちゃんも。ニアニスくんは零が大事にしてる子、眼鏡くんは…接触を持たない方が良いよね絶対。うん。せないずくんの事があるから。知らない人とプロデューサーさんは関わらなきゃ大丈夫だろうな。いや無理か。プロデュースで困った事があったら頼らない訳にはいかないし。 2-Bの前。いざ入ろうと扉に手を掛けようとした時だった――― 「会いたかったぞ〜!愛しい『怪物』の子よ」 「ひぃっ」 き、聞こえちゃいけないこの声は…! ギギギッと後ろを振り向くと口調こそえらく変わったが姿は…姿も幾分か変わった零がいた。口をあんぐりと開けたまま放心する私に構わず、零は私から変装用の眼鏡を取り抱き上げた。 「ここでは目立つからのう、お主の『秘密の部屋』にでも行こうぞ」 「え…え…?」 「ふわあ…ついさっき、深海くんが起こしに来ての。大変珍しい事もあるもんじゃと思うたら、『あの子』が帰ってきたと大喜びじゃったぞ」 「(奏汰のせいかあああ!)な、何の事ですか私関係ないと思いま……ゴメンナサイナンデモアリマセン」 気のせい?気のせいかな?なずちゃん情報によれば、今の零は昔と大分違うって聞いてたけど…一瞬私を見下ろした瞳は昔のままだった、すっごく怖かった。 零に抱かれるまま着いたのは何の変哲もない普通の部屋。私を抱いたまま器用に鍵を制服のポケットから取り出し、鍵を開けて中に入った。…来る途中、生徒が居なくて良かった。 「…零」 「ん〜?」 零だけに報せたのか分からないけど、もうどうにでもなってしまえ。 「また会えたね」 「…当然じゃよ、我輩と約束したのじゃから」 ・ |
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