即行でバレました





―夢ノ咲学院校門前―

後ろに一つにされた銀の流麗な髪が風に靡く。後ろ姿は大層な美少女だろうと思うのだが、前に回ると今時誰も使用しない瓶底眼鏡を掛けた残念な少女がいた。夏見は只今絶賛危機的状況に陥っていた。受付嬢に何度説明しても『プロデュース科』に在籍するのは一人だと突っぱねられる始末。前に何度か夏見と同じ事をした女子生徒がいるらしい。其奴のせいか!と怒っても仕方ない。後ろには大勢の生徒が並んでおり、中々進まない事に苛立ちが募りつつあり、担当の先生を呼んで下さいと言っても受付嬢は頑なに夏見を校内に入れようとしない。

こうなったら実力行使か?と眼鏡の奥の瞳がギラリと光った直後―――「その人が言ってる事は正しいヨ」と後ろから声が。二人同時に其方を向いた。受付嬢は顔を赤らめ、夏見は顔を真っ青にした。

緋色の髪に白が混じった金色の瞳をした男子生徒の登場と説明により、夏見は受付嬢に新しいプロデューサーだと信用してもらう事が出来た。話が終わる前に逃げれば良かったと内心後悔しつつ、校庭の噴水付近まで手首を掴まれて連れて来られた。

あーどうしよう、何て説明しよう、というか怒ってるよね。

男子生徒に掛ける言葉を頭の辞書から片っ端から探すが見つからない。噴水の前のベンチに止まると男子生徒が綺麗な表情を不機嫌そうに歪めて振り向いた。



「ボクに何か言うことハ?」

「…あ…ありがとうございました。お陰で助かりました。えーと…」

「…」

「えーと……」

「…」



無言の圧力とはこれか。お名前は?と続けたいのに目の前の彼が許してくれない。掴まれている手首の痛みが尋常じゃなくなってきた所で漸く夏見は観念し、眼鏡を外した。



「ありがとう夏目」



赤と白の双眸が夏目と呼んだ男子生徒を映し出す。



「帰って来るなら連絡の一つでも入れるものだけド?」

「バラすつもりが更々なかったから……嘘嘘、時期になったら言うつもでした」



懐かしいやり取りは全然嬉しくないが夏目に出会えたのは嬉しい。一年振りに出会えた可愛い『おとうと』はやっぱり可愛く見えた。噴水を囲う石縁に腰を下ろした。



「さて、どこから話そうか」

「ボクは偶々ねえさんを見つけられたけど『五奇人』のにいさん達は知ってるノ?」

「あの四人には言ってない。知ってるのは放送委員の親玉だけ。なっちゃん、一応学院側にはバレずにやってくれって言われてるからあまり………イエ、ナンデモアリマセン」



不用意に近付いちゃ駄目だと言おうとしたらあまりにも怖い顔で睨み付けてくるから片言の謝罪を述べた。怒っている理由を知っていてもどうしようもないのだ。巻き込んで怪我でもされたら今度こそ合わせる顔がない。ごめんねと小さく謝ると大きな溜め息を吐かれ、ねえさんは何も分かってないと言われ、身体を押された。



「え」



夏見の後ろは噴水。躱す事も出来なかったので当然身体は噴水に落ちた。勢い良く舞う雫。夏見の腕が水から這い出るが何故かまた水中に戻った。

すると、勢い良く水中から人が現れた。水中から飛び出た夏見は荒く呼吸を繰り返し噴水を睨みつけていた。



「ぜえ…ぜえ………夏目〜怒るよ〜?」

「おねえちゃんがおとうとにおこったらだめですよ。そんなわるいおねえちゃんには『めっ!』しますからね」



もう一人いた。夏目と同じ制服を着た海の色と同じ髪色にライムグリーンの瞳をした青年を赤と白のオッドアイが睨んでいた。


「ぜえ…ぜえ…あと…『奏汰』にも怒ってるからね…?」

「すいません。いきなりのさいかいについはしゃいじゃいました」

「ついで人を殺すな!危うく溺死するとこだった…」

「だいじょうぶですよ。むかし、れいにしりょくをじまんして「うんごめんなさい。言わないでください」

「それッテ、零にいさんがねえさんを「だから言わないでってば」



思い出したくもない

両腕を擦りブルブル震えるのは二人のせいである。転校初日にずぶ濡れとか…諦めに近い溜め息を吐き、でもなあと心の中で呟いた。



「(奏汰も夏目も元気そうだね。二人がこうなら、零も渡も宗も元気だよね。なずちゃんによると、『王さま』も復帰してるって言うし)」





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