会いたい

『やあ、朔間先輩。こんな所で会うなんて奇遇だね』

『なあに、ちと恋しくなっての。ここにひょっとしたらと思って足を運んだが…』

『残念だったね。いたのは君たちの愛しい『ダンテ』じゃなくて、僕で』

『しかし、どうしてここに。天祥院くんなら、こんな小さな薔薇園に来ずとも、もっと大きくて無数の薔薇が咲く薔薇園を見れるじゃろう』

『ここがいいのさ。ダンテが愛し、残したものの側にいたい。例えそれがどんな廃棄物だったとしても。ダンテが愛したものなら、どんなものでも僕には価値あるものに変わる』

『…気付いてはいたんじゃがの。おぬしのダンテに対する執着を。けど、解せんのう。おぬしとダンテはそこまで親しい関係でもなかったじゃろ?どうしてそんなに拘るのか、教えてくれんか』

『君らしくない話振りだね、朔間先輩。
答えは教えてあげない。僕たちだけの秘密だから。君たちがどれだけあの子を縛り付けようとあの子の本心までは縛れない』


薔薇に埋もれていた身体を起こし、服に付いた花弁を手で払う。ゆっくりとした歩で零の前に立った英智。


『君が此処に来るって事は、まだ誰もダンテの居場所を知らないって事かな』

『さあ、のう。仮に知ってても言わんよ。大事なダンテを横取りしようとする輩には、のう♪』


何も知らない者には、穏やかに会話をしている様にしか見えないが―――水面下では、バチバチと激しい火花を散らせている。一歩間違えれば大火傷をする会話の繰り返し。それを先に切り上げたのは英智の方だった。


『さて、僕はもう行くよ。君も、ここで憩いたいなら好きにしたらいいよ。……正直言うと―――』


その先の台詞を零は思い出せなかった。正確には、記憶の回想を中断させられた。


『リンタロウの禿!中年親父!加齢臭まみれー!!』という、幼女の怒声が響いたから。驚いて思考を現実に戻ると夏見の携帯を危うくキャッチしたと思われる宗の視線が下に向いている。夏見がいない。よく見ると夏見は下に落ちていた。え?何?何事?と状況が飲み込めない零が宗に回答を求めるも宗もよく分からないらしく。何でも、夏見の携帯が鳴ったので出たらこうなったとか。宗は夏見をソファーの上まで引っ張り上げ、携帯を渡した。


「ありがとう宗……。あ、あの、エリスちゃん?」

『中年!中年のださ親父!一回死んでこい!!』

『え…エリスちゃ〜ん……!そんな悲しい事云わないでおくれ……ほら、エリスちゃんの大好きな洋菓子がまだこんなにあるから!だから機嫌を治して!今度のお茶会に雪平君も呼ぶから!ね!』

「………」



会話の内容が今一掴めない。エリスの機嫌を損ねた森が必死にご機嫌取りを行い、何故か夏見の名前を出した。お茶会というのも、何の話か。話し掛けるタイミングを伺っていると左右から鋭い視線が。ビクッとなって左右を確認するとさっきまで前に座っていた零が左にいて、右には宗がいる。二人とも険しい視線を夏見に向けている。二人とも電話の相手に話し掛けろと目で言っている。恐る恐る夏見が携帯を耳に宛てようとしたら、零に腕を捕まれた。



「な、なに」

「聞こえるようにして」

「え」

「早く」

「………」



零にも宗にも急かされ、仕方無くスピーカー状態にして恐る恐る相手に話し掛けた。



「あのー、エリスちゃん?」

『ふんだっ!いいわよ、夏見とは少し前に会って一緒にパフェを食べたから!』

『え?そうなの?でもねエリスちゃん、エリスちゃんにはまだ早いと思うんだよ私は』

『いいじゃない!リンタロウと違って若いし凄くイケメンだし!何より、お金持ちだし』

『うぐ…!エリスちゃんが夢中になるのも分かるよ。彼は―――『天祥院』財閥の御曹司で夢ノ咲学院のトップアイドル。分かるけど、何でよりによって何処かの誰かさんとは色違いの―――』


途中で通話を切断した夏見は脱力した様に背凭れに身を預けた。左右にいる宗と零はじぃっと夏見を見つめる。



「…今の電話は何じゃったんじゃ?」

「こっちが聞きたい」



どちらが電話を掛けてきたかは分からないがエリスのご機嫌斜めな理由がある程度分かった。大方、何かのきっかけで英智の存在を知った彼女が好きになったとか、そういう話だろ。エリスを溺愛する森には耐え難い話であり…必死にエリスの意識を英智から逸らそうとして色々やってあの暴言なのだろう。最後の森の言った『英智の色違い』発言は聞きたくなかった。そう言われると嫌でも意識してしまう。そして、それは彼等も同じ―――。



「さっきの天祥院くんの色違いとは、何の話かえ?」

「……」



言わないと彼等はうるさい。本当は夏見自身も嫌だがこれから先、何かあった時の為と思い宗と零に携帯のフォルダにある写真を見せた。絶句する二人に写真の人物との関係を説明した。



「……確かに『色違い』だね」

「……うむ。『色違い』じゃの」

「うるさいよ。…はあ〜、嫌でも意識しちゃうよ。まあ、今はイタリアに戻って葡萄畑を手伝ってるって、うちの爺や付きのメイドさんが言ってた」

「ああ、そう言えば君の実家から沢山の葡萄と葡萄ジュースが届いているよ。零達の所にも?」

「多分、夏見と親しかった者に送っておるのじゃろ。薫くんがこの間『夏見ちゃんのお家の人から大量の葡萄届いてビックリしたよ〜』と言っておったから」

「レオくんやせないずくん、みけママ、きりゅうちゃん、なずちゃん、それから色々だね。毎年大豊作だからちょっと分けても平気みたい。婆やが丹精込めて作った葡萄は美味しいからね」

「知ってるよ。君の家には何度かお邪魔をしてる。最初は驚いたがね。あんな若い人が君のお婆様とは」



一年前、夢ノ咲学院で男装アイドルをしている夏見が心配で遥々イタリアから夢ノ咲まで飛んできた夏見の祖母ダンテ。丁度旅館には、『五奇人』の面々もいたので面識があった。突然現れた銀髪の絶世の美女に押し潰されん勢いで抱き締められ窒息しかけた夏見を救出したのも良い思い出だ。

電話を掛けてきた相手が誰かはさておき、夏目や奏汰に何度かメールを送っているのに二人とも返信がない。そろそろパフェも食べ尽くしてしまう。宗と零も既に自分の飲み物を飲み干している。お代わりを頼む雰囲気でもない。

すると、三人の携帯が同時に震えた。奇妙な偶然もあるんだと思いながら、夏見がディスプレイ画面を確認。



「宗は夏目、零は薫ちゃんだね」

「そういう夏見は深海くんじゃの」



零の通話ボタンを押してから自分の電話に出た夏見。向こうの声の主は相変わらずふわふわとしていた。



『もしもし〜夏見ですか』

「そうだよ。奏汰くん達今何処にいるの?」

『すみません。ちょっととらぶるがはっせいしたのできょうはここでおわかれです』

「え?トラブルって何かあったの?」

『きしさんになっちゃんがおいかけられていて、ここにいたらあぶないのできょうはさきにかえりますね』

「そ、そうなの?よく分からないけど気を付けてね」


通話を終えた夏見は携帯を閉じてポケットに仕舞った。奏汰の言ったきしさんとは恐らく『knights』の誰か。その誰かに夏目が?何したのあの子?

ちらっと宗の方を見ると宗も丁度会話を終えたのか携帯を仕舞っていた。確か、相手は夏目だったはず。宗に電話の内容を聞いた。

新しい『プロデューサー』を誘拐した実行犯ということで『knights』の鳴上嵐に追い掛けられる羽目になったので姿を消したのだとか。因みに、此処にはみかとあんずもいる。あんずは渉に場所を聞き出して来たのだとか。その夏目も、今は奏汰と合流してのんびり帰っている最中という。

未だに自分を探しているであろう嵐とあんずとみかには申し訳ない。



「…明日が憂鬱。というか、変に目を付けられそう」

「『生徒会』に?」

「他にある?」

「僕たちも君がダンテだとバレないように協力は惜しまないが…最終的には、君がどうにかするしかない」

「どうにかって、」


夏見自身考えているのは、顔見知りのいるユニットには極力近付かない事。ユニット活動時以外でも。目立たない様にしたいのに何処かの誰かさん達のせいでできない。

これに気付いていれくれたらな…。とこっそりと溜め息を吐いた。

「取りあえず、薫くんは嬢ちゃんの時に一度やらかしておるから今度は慎重にじゃよ♪ん?だからそれはあんずの嬢ちゃんの判断に任せるぞい、我輩は。ではの」と電話を終えた零はやれやれと肩を竦めた。



「零の方はどんな電話だったの?」

「何て事はない。薫くんが『新しい『プロデューサー』ちゃんに会いたい!』って騒いどるだけじゃよ」

「ああ……薫ちゃんも厄介だね〜。あ、でも更に上にいくのがせないずくんだ。見つかったら、100パーセント私はパシりにされるのが目に見えてる」



あの綺麗な顔に睨まれると動けなくなる。瀬名の顔は他には類を見ない程の美人なので怒ると迫力があり、また、夏見自身瀬名に頼っていた部分が多い為逆らえないのだ。






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