※少しも離れられない

ヨコハマで起きた組合(ギルド)・武装探偵社・ポートマフィアの三つ巴の抗争、その後直ぐに発生した亡霊(ファントム)との戦争―――。

此の二つのせいで長らく仕事漬けの日々を送ってきた坂口安吾は、また次の仕事の為ヨコハマから夢ノ咲まで赴いていた。周囲からは休息を提案されたが事態が事態なだけに速やかに状況を把握し、迅速に対処しなければ大事になる。自動販売機の缶珈琲片手に携帯の電話帳を開いた安吾の耳が聞き覚えのある声を拾った。視線を声のした方へ向けると危うく缶珈琲を落としかけた。ヨコハマに居る筈の彼女が如何して夢ノ咲に?髪が銀色になっているのは何故?彼女の側に青年が着ているのは、今特務異能課が捜索している少年が通っている学校と同じ制服。安吾の記憶が確かなら、彼の制服を着ているという事は彼はアイドルの筈。傍目から見て、二人の仲は他人とは思えない。彼女を溺愛している彼が今の光景を見たら何と云うか…。

声を掛ける事も無く、再び携帯の電話帳に視線を戻した安吾だったがもっと早く電話をしたら良かったと後悔した。



「―――あ!教授眼鏡さーん!」



缶珈琲を飲んでる途中じゃなくて良かった。でなければ、珈琲を吹き出していた所だ。

もう一度、同じ方向へ視線を向けると遠くから見ていた彼女が此方に向かって来ていた。安吾の元まで走って来た彼女ー夏見はとても嬉しそうに安吾を見上げた。






*ー*ー*ー*ー*ー*


パフェも食べ終わったのでカフェを出る事にした三人。宗はみかを拾って帰ると言うので、じゃあ零もお家に帰りなよと言うと「嫌じゃ♪」と拒否され、手を捕まれ歩き出した。やっぱり今夜も…と思うと気分は憂鬱だった。どんなに嫌だと抵抗しても、逃げても、追い掛けて来る。怖い、怖い程の執着心。



「(零に抱かれるのは怖い。怖い位……私を壊そうとする。でも、)」



ちらっと、鼻歌でも歌い出しそうな程上機嫌に歩く零を見た。



「(何で零は……私を抱いたんだろう)」



零に抱かれ始めたのは一年前。原因が昔も今も分からない。無理矢理家に連れて行かれたと思えば、零の部屋に閉じ込められてそれから―――。



「(……)」



思い出したくもない思い出。あんなに人を怖いと思ったのは太宰以来だった。けれど、太宰を怖いと思うのは彼は元々裏社会の人間。普段は国木田に嫌がらせをして楽しんだり、敦で遊んだりして怒られたり、自殺をしたり、自由気ままに飄々としているが時折見せる冷徹な瞳は見るだけで心臓を抉られる感覚に陥る。

なら、零は?零だけじゃない。夏見に対して、並々ならない感情を抱く彼等は?

彼等はアイドルという、一般人とは違う括りにいるのは間違いない。だが、夏見からしたら一般人と同じ。裏社会の人間でも、異能力者でもない。

偶に、どうしようもないぐらいに怖いと感じる時がある。



「夏見?」

「!な、なに」

「さっきから黙りこんで、何か考え事かえ?」

「何もないよ。何も」



いけない。

つい、自分の世界に浸っていた。

訝しげに自分を見下ろす零を誤魔化す夏見の目がある人物を発見した。

薄茶色のスーツ、生真面目そうな雰囲気に相応しい大きな丸眼鏡を掛けた男性が缶珈琲片手に携帯を弄っていた。彼が何故夢ノ咲に?唯の偶然?

偶然でも何でも良い。ヨコハマの知り合いを見つけた夏見は零の手から逃れ、一直線にその人の所へ走って行った。



「夏見!?」



零の驚いた声は無視して、夏見はその人に向かって「教授眼鏡さーん!」と呼び掛けた。教授眼鏡と呼ばれたその人は驚いて此方を向いた。やっぱり、夏見の知る人物だった。教授眼鏡ー改め、坂口安吾の元まで走って来た夏見は嬉々とした様子で安吾を見上げた。



「こんにちは!教授眼鏡さん!」

「あの…雪平君。前にも云いましたが、僕の名前は坂口安吾です。教授眼鏡ではありません」

「でも、中原さんが教授眼鏡が名前だって、」

「そんな訳ないでしょう。全く…所で、何故君が夢ノ咲に?」

「其れは教授眼鏡さんも一緒ですよ。態々こんな所まで来てお仕事ですか。お仕事だったら感心しますよ。太宰さんに其の仕事人間っぷりを分けて欲しい位です」

「僕は仕事人間と云う訳でも無いですが…。後、雪平君、後ろを見なさい」

「後ろ?―――あ……」



安吾に促され後ろを向いたら、さっきまでは上機嫌だったのに今は不機嫌全開の零が。拙い…。



「あ……う……れい……」

「…急に走り出さんでおくれ。心配するじゃろ」

「う、ん。ごめん。…あ!それより!」



今日の夜は零の不機嫌コース決定。なら、開き直って安吾に色々話し掛けようするも先手を打たれた。



「僕は此れから仕事ですので、君は帰りなさい雪平君」



缶珈琲を塵箱に捨て、携帯を片耳に宛てた安吾にこれ以上の会話は無理と判断した夏見は最後に「はーいさいならあんこうさん」と拗ねた表情で去って行った。あんこう、ではなく安吾です。と云いたかったが相手が出たので其れは出来ず。間違い無く夏見は安吾の名前を知ってる。知ってて教授眼鏡と呼んでいる。大方の原因は把握している。



「坂口です。はい、はい……解りました。直ぐに向かいます」







*ー*ー*ー*ー*ー*ー*



数時間後―――



「あ……」



世の中の殆どの人は眠っているであろう時刻。不意に目を覚ました夏見は掠れた声を上げた。

ショッピングセンターを出た後、真っ直ぐ旅館へ戻り、女将や若女将達と軽く談笑し、零に連れられ自分の部屋と向かった。入るなり畳の上に投げ飛ばされた。受け身を取れず、全身の痛みに顔を歪ませると零が覆い被さりキスをした。喰らい尽くさんばかりに貪られて身体を震わせた。怖がっていると分かっていながらも零がキスを止める事は無かった。

零が苛立っている理由を知ってる。夏見自身、向こうに行ったら駄目だと頭では理解していた。それでも、ヨコハマの知り合いがいた、駆け寄らずにはいられない、声を掛けずにはいられない。

今夜の夕飯は無しかな…頭の片隅でそんな事を思った。



「よい…しょ…と…」



自分を抱き締める零の腕を慎重に外して拘束から逃れた。

夕飯は食べれたがその後は温泉に入る間もなく抱かれた。

気絶した夏見の身体は綺麗に洗われており、よく見ると二人の着ている服は館内着。

散々喘がされた喉は潤いを求めており。零を起こさない様に静かに寝室を出た夏見は居間へ移動し、テーブルにある水差しを手に取った。お盆の上のコップを取り、そこに水を注いでいく。水を注ぐ音だけが暗闇に響く。



「ごく……ごく……っはあ……おいし」



注いだ水を一気に飲み干した。もう一杯欲しいと水を注いでまた飲み干した。乾きもましになった。このまま、寝室に戻って布団の中に入ろう。そう思うのに出来なかった。鞄の中に入れていた携帯が無性に気になってしまったから。

四つん這いの体勢で移動して鞄に手を伸ばし、中にある携帯を取り出した。ピカピカと点滅している。携帯を開き、画面を確認するとメールの受信が3件。相手は『敦君』『リンタロウさん(森さん)』『国木田さん』の三人。メル友のリンタロウがポートマフィアの首領と知ったのはつい最近。知った当初はメールを止めようとしたがエリスの反対もありしなかった。向こうも、マフィアの首領としてでなく、飽くまでも個人として接しようと約束してくれたので夏見は其れを信じ、今でも悩み事があればメールをしている(最近は主に太宰の黙らせ方等)。内容は気になるが確認するのは明日にしよう。



「早く戻ろう」


でないと、何時零が起きるか解らない。熟睡していても、夏見が隣からいなくなると起きて探し出す。

携帯を閉じ、最後の一杯と水を飲んで寝室に戻った。布団の上では、規則正しい寝息を立てて寝ている零がいる。安堵の息を吐き、こっそりと隣に戻った。

瞬間。



「んっ……!」

「思ったより、早かったな」



胸倉を捕まれ強引に口を塞がれた。驚く間もない程の激しいキスに抵抗の文字も浮かばない。されるがまま、零が飽きるのを待つ。

終わった頃には、荒い呼吸を繰り返す始末。



「はぁはぁ……零……」

「もう十秒遅かったら、探しに行ったのに。そうしたら、お前の意見何か関係無く抱けたのにな」

「ああっ…!」



零の手が夏見の敏感な場所を下着の上から押した。ぐりぐりと指で弄られ、段々と蜜が流れ下着を湿らせていく。震える手で零の腕を掴んでも全く力が入ってないので行為を止める事は出来ない。



「やだあっ、やだぁ……!もう、シたくないよぉ……!零お願いっ……今日の放課後、零の言うこと、なんでも聞くから……今は……」

「…言ったな?忘れんなよ」

「あ、あああぁ…!!」



下着の中に直接手が入り込み、蜜を絡めた指が敏感な突起を擦った。突然の快楽に大きな啼き声を上げた夏見は呆気なく絶頂してしまい、身体を震わせる。下着の中から手を出し、絶頂し、快楽に震える夏見を抱き締めた零が囁いた。



「今日は木曜日だったよな。木曜日は確か『knights』のプロデュースの日だっけ」

「!」



その名前が出て夏見の身体がビクッと震えた。



「安心しろ。バレないように守ってやる」

「……」

「お前は大事な……俺の………から」



最後零がなんと言ったのかは夏見には聞こえなかった。聞く余裕がなかった。持て余している熱を早く遠い彼方へ追いやる為に。疼く身体を無視して、零の身体にぎゅっと抱きついて無理矢理眠った。





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