たらこに好かれても



「まだ怒ってるノ?」

「怒りたくなるよ…」



結局、今日も授業に出られず一日が終わった夏見は深い溜め息を吐いた。午前中夏目に抱かれて気絶。目を覚ませばもう放課後。ゲー研の部室にて、64のセットをする夏目から出来るだけ距離を取り、頭を抱える夏見。夏目に連れ去られたので本人の意志でいなくなったのではないと言い訳出来るがもう少し行動を控えてほしい。彼等は手加減を知らない。毎回毎回人が気絶か、殆ど意識のない状態まで抱いてくる。だから、戻ってきたと知られるのが嫌だった。こうなると解っていたから。バレた以上、腹を括っても矢張りどうにかしたい。そんな夏見の心情等知る筈もなく、ゲーム機のセットが終わった夏目がおいでおいでと手招きをする。

仕方なく夏目の隣に座り、鼠色のコントローラーを渡された。本体に差し込まれたカセットは、ゲームが苦手な夏見の為に夏目が探した『たまごっち』である。テレビと64の電源を入れた。



「懐かしいね」

「そうだネ。出来るゲームない!!って八つ当たりされたのが記憶に新しいヨ」

「うるさいよ」


ゲーム等、ヨコハマに来てからもやった事が無いので初めてプレイしたゲームが初心者向けとはいえ、夏見にしたら上級者向けと等しかった。タマゴを選ぶ段階で夏見はどれにしようか決めあぐねていた。夏目は白の新種のタマゴ、なら自分は、と思ったもののピンと来ない。さてどうしようかなと考えていると「夏見〜」と夏目以外の声が後ろから飛んできた。しかも、夏見の身体を背後から抱き付いたのと同時に。


「うわっ!びっくりさせないでよ…あ、でも色決まったかも」


抱き付いてきた相手の目の色を見てタマゴを新種の緑にした。よっこいしょと夏見を膝の上に乗せたのは、今日はぷかぷかしていない奏汰。


「……あの、すいません、今人抱き上げる時何か言った?」

「気のせいじゃなイ?」

「きのせいです」

「………」


疑いの眼を向ける夏見の頬をつんつん突き、はじまりましたよと画面を見る様促した。納得いかないと顔に書かれてはいるがしつこく言っても時間の無駄。奏汰の相変わらずのニコニコ顔に毒気を抜かれつつ、順番を決めるサイコロを振った。


「夏見がさいしょで、なっちゃんはさんばんめみたいですね」

「順番が早いからって得するゲームでもないけどね」


プレイ1回目のサイコロを振るった。出た数字は5。タマゴが素早く移動し、止まった場所は+マス。タマゴから赤ちゃんのたまごっちが誕生した。真ん丸とした可愛らしいたまごっちに最初の食事を与える。おにぎりでいっかとおにぎりを選択。+マスに止まればたまごっちの成長ポイントが上がる。自分の番が終わった夏見が顔を上へ向けた。


「よく分かったね。私がここにいるって」

「かんです。おさかなさんのかんをたよってみました」

「…奏汰くん、人間だよね?」

「姉さんだけには言われたくない台詞だネ」

「ほっといて」


1年前、人間離れした行動を取り続けた夏見の伝説は数知れず。その殆どが異能力のお陰といのは誰も知らない。本人以外…。

2番目のコンピューターの番も終わり、次は夏目の番。夏目が振るったサイコロの目は6。順調に進んだタマゴはカードのマスに止まった。カードマスに止まるとランダムでたまごっちの成長に役立つ物から、罰ゲームだろと言いたくなるカードまである。夏目が取得したカードは[サイコロ4つ]だった。


「あ、結構いいカード出たね。私、毎回絶対外れ引いちゃうのに」

「日頃の行いが良いからだヨ」

「どの口が言ってんの」

「ん?知りたイ?」

「…!」


ずいっと顔を近付けた夏目に思わず逃げようとするも、後ろに奏汰がいるのを忘れていて動けず。ちゅっとリップ音を立てて触れるだけのキスをすると顔を真っ赤にする夏見が可笑しくて夏目は小さく笑う。


「顔真っ赤だよ姉さン。初めてでもない癖に純真ぶっちゃっテ」

「なっ…」


(…何時からこの子、こんな性格の悪い子になったの?そりゃあ、『五奇人』の他の四人にはすごく良い子だったよ?何故か私だけ意地悪されたけど)


言い返そうとするも「夏見のばんですよ」と奏汰の声が降りてきて。横目で夏目を睨みつつ、サイコロを振った。出た目は1。一つ進んだマスは+マス。今度は遊びを選択した。「なっちゃんも夏見とまたあそべてうれしいんですよ」という声と同時に頭の天辺に柔らかい何かが落ちた。ん?と顔を上げると今度は額に。優しげに自分を見下ろすライムグリーンの瞳と赤と白の瞳が合った。


「なに?」

「なにも」

「そう」


変に手を出してくるよりよっぽどマシか。

それから、ゲームを続けて数十分。二人のたまごっちは最終形態へと変身した訳だが、項垂れるのが一人いた。

夏見だ。



「何で毎回毎回最後これになるのよ」

「好かれてるんじゃなイ?」

「嬉しくないよ」



夏見のたまごっちは『たらこっち』へと変身。夏目のたまごっちは『まめっち』へと変身。1年前もそうだが、夏見のたまごっちは必ず最後『たらこっち』になる。何のたまごを選んでもそうなる。たらこの呪いでも掛かっているのかと言いたくなる。ゲームは夏目の勝ち。夏見は3位に終わった。64の電源を消した。コントローラーを床に置くとお腹に巻かれている腕に強く引き寄せられた。



「うわっ」

「おつかれさまでした〜」

「お疲れって言われるほどしてはないけどね」


夏見はちらりと壁に掛けられている時計を見た。時刻は既に放課後。明日、どういう対応をしたらいいのか…。面倒だなと溜め息を吐くと、突然。

勢い良く扉が開かれた。

しかも、赤い花弁が一緒に入って来た。



「Amazing♪やっぱり、ここにいましたね二人とも。おや、奏汰も一緒だったんですね〜。丁度良いので、この後四人でお茶をしに商店街の方へ行きましょう!今、ちょっと面倒な事になってますので」

「面倒な事?」

「薔薇!薔薇の花弁どうにかして渉くん!部屋が薔薇の花弁まみれになる!」

「気にしなくていいヨ。後で、センパイに掃除させるから」

「センパイ?」

「わたる、めんどうなことってなにかあったんですか?」

「説明すると長くなりそうなので移動しながら説明します」



渉に促され、三人はゲー研の部室から出た。面倒な事はどうも、渉本人のせいな気がする、と夏見は内心思っているのだがそれは当たっている様で。遠くから、自分を呼ぶスバルや真緒の声が聞こえる。人通りが少ない通路を歩く中、半眼で渉を見上げる夏見の瞳は心底呆れ返っていた。



「…これ、あれだよね?渉くんのせいだよね?というか、夏目と渉くんのせいか」

「え〜ボクは姉さんを連れ出しただけだヨ?」

「私が連れて来て下さいと夏目くんにお願いしましたからね」

「うん。そのせいじゃないかな、渉くんの言う面倒事は」


詳しく事情を聞くと、今日一日屋上で今度の演劇の仕様を一人考えていた所、不意にスマホが点滅しているのを見つけ画面を見ると北斗やあんずから着信の嵐が来ており、メールからにも来ていたので内容を確認すると転校生を何処へやった、転校生と夏目と何処にいる、という内容が殆ど。そいうえば、放課後夏見を演劇部の部室に連れて来てほしいと夏目に頼んでいたのを思い出した。大方、トラブルがあって夏目が夏見を連れ出した理由に先の内容を言い、一向に戻らないからこうして北斗やあんずから電話とメール攻撃を受けているのだろうと推測した。屋上から校舎内へ戻ると、遠くの方から『Trickstar』の面々やあんずの声が届く。これは面白いと夏見と夏目探しを始めたのだとか…。



「面白くないよ。あんずちゃんやひーくん達に申し訳ないよ。素直に出て来た方がいい気がする…」

「明日からでいいのでは?どの道、今日は姿を眩ませた方が夏見にとっては良いですしね」

「どういう意味?」

「そうですね。まだ『たいさく』をしてませんからね〜」

「対策?」



何の?と夏見が首を傾げるも渉と奏汰は「「ひみつで〜す♪」」と人指し指を夏見の口に当てた。

「では、私と奏汰で時間稼ぎをしておくので夏目くんと夏見は適当な所にいてください」とそう言うと二人は何処かへ行った。

残された夏見は二人の対策が何の事か未だ分からず。考える前に夏目に手を握られた。



「見つかる前にこの場を離れよウ」

「でも、何処に行くの?」

「そうだネ…姉さんは行きたい場所はないノ?」

「そうだね……あ、ある…」

「何処?」

「夢ノ咲にいる間お世話になる旅館だよ」










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