探す四人組


長らく使用された形跡の無い古い空き教室で始まった行為の末―――



「あっ……ああ……」

「ん……はあ……」


漸く終わった解放感からか、快楽で体が震える夏見の意識はもう消えかかっていた。疲労の吐息を零した夏目はゆっくりと自身を抜いた。飲み込められなかった白濁が床に零れた。びちゃっと音が鳴った。そこには、既に水溜まりが出来ていた。何度も絶頂させられた挙げ句愛液を吹かされた結果だった。ねえさんと呼んでも夏見にもう意識は無い。相手は違えど、昨日に続いて今日も抱かれた。それも午前中から。

夜は零に抱かれる。可哀想だと思わない。仕方無かったのかもしれない。けれど、何も言わず逃げた夏見が悪い。逃げられない様にしないと次何時またいなくなるか分からない。意識の無い夏見の汗ばんだ額に口付けを落とし、強く小さな身体を抱き締めた。



「夏見ねえさんは…僕たち『五奇人』のモノだよ…」



金色の瞳は、何処か―――だった。



―――その頃、2年A組ではある騒ぎが起きていた。



「…それは本当か、衣更」

「冗談でこんな事言うかよ」



1時間目の休み時間に夏目に連れ出されてから一向に戻らない転校生を心配した真緒が、自分と同じユニットの北斗を訪ねた。夏目は、昨日の件を詫びたい渉に転校生を連れて来てとお願いされて彼女を連れて行った。所が、2時間目、3時間目が過ぎても転校生は戻らない。謝罪するだけなら2時間目の休み時間辺りで帰って来ると思った真緒はその時の自分を殴りたくなった。



「部長の事だ、転校生の反応を見て面白がるのは目に見えている。そこに逆先も加わっていたら…」

「…なんつーか、転校生がマジ可哀想になってくる。無理矢理にでも止めれば良かった…」

「いや、例えその場で止められたとしても、今度は本人が登場する可能性が大いにあった。どちらにしろ、止められはしなかっただろう」



自身が所属する演劇部の部長にして、一癖も二癖もある夢ノ咲学院のアイドルの中でも特に抜きん出た才能を持つ五人の天才ー『五奇人』の一人に目を付けられたのだ。しかも、渉が好みそうな面白眼鏡を掛けているのだ、彼の面白センサーが反応しない筈がない。真緒は、自分一人で行くよりも後輩である北斗が居てくれたら心強いと演劇部の部室に行くのを頼みに来ていた。因みに、B組には渉と同じユニットに所属する伏見弓弦がいるが、彼は生憎と今日は不在だ。一つ下の後輩で彼にとってのご主人、姫宮桃李もいない。姫宮の家の事情で今日は来られないと朝副会長が言っていた。

二人は顔を見合わせ、小走りで教室を出て行った。



「お〜い、ホッケ〜、見てみて!廊下で……て、あれ」

「どうしたの?明星くん」

「ホッケ〜いない」

「ホントだ」



飲み物を買いに行っていたスバルが真が戻るといる筈の北斗がいない事に気付いた。あんずは、提出物のプリントを職員室まで持って行っているので不在。どこ行ったんだろうとスバルと真が席に座りながら会話をしていると「あら?いないわね」隣のクラスの嵐がやって来た。誰かを探しているのか、A組の教室内をキョロキョロと見渡していた。「鳴上くん。誰か探してるの?」真が気になって声を掛けた。



「あら、真ちゃんとスバルちゃん。そうなのよぉ、凛月ちゃんが真緒ちゃんいないと安眠出来ないってうるさいから呼びに来たんだけど…」

「?サリー此処にいたの?」

「ええ。確か、転校生ちゃんが連れて行かれちゃって、」

「「連れて行かれた!?」」



一体誰に?

嵐から詳しい話を聞いた二人は、直ぐ様動き出した。



「ありがとう鳴上くん!僕たち衣更くん達と合流してくる!」

「夏目に変態仮面さん所まで連れて行かれるなんて…!無事でいろよー転校生ー!」



台風の如く教室を出て行った二人を呆然と見送った嵐は、片手にミネラルウォーターを持ったあんずに声を掛けられるまでそのままだった。





*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*



後始末を終えた夏目は眠る夏見を抱いて、空き教室からゲー研の部室にいた。此処なら、床に座っても問題は無い。夏見を腕の中に収め、自分は壁に凭れ掛かり。ぼんやりと寝顔を見下ろした。暇潰しにゲームでもしてもいいが、テレビやコントローラーを操作する音で起こしたくない。後は寝顔を見ていたい。時折、頬を突いて反応を楽しんだりしていたが夏目自身も眠くなってしまい、ゲー研の収納スペースに入れてあるクッションを二つとブランケットを取り出した。クッションを枕代わりにし、ブランケットは夏見に掛けて横になった。夏見を抱き枕にして重い瞼を閉じた。



―――転校生が夏目に渉の所へ連れて行かれたと知った真緒と北斗が演劇部の部室に突入したものの、室内には誰もいなかった。嵐に話を聞いて飛んで来たスバルと真もいる。北斗の後に続いて恐る恐る中へ入った3人。



「誰も…いないね」

「秘密の部屋とかないの?」

「ない。ただ、あまりに不用意には触るな。どんな仕掛けが起こるか分からんぞ」

「お、おう…」



現演劇部部員の北斗でさえ、部室の何処にどんな罠が仕掛けられているかは知らない。一応、誰かが誤って触れたとしても作動しない仕掛けだと仕掛けた本人は言っていたが信用出来ない。

部室に入った時点で人が一人もいないと確認出来たし、万が一という事もあって、四人で中を隈無く捜索するも転校生の姿はない。

四人は真ん中に集まった。



「いないね。転校生ちゃん」

「ひょっとしたら、部長が逆先に指定した場所がそもそも違うんじゃ…」

「あー…そういえば、場所までは言ってなかったな。だとしたら、何処に連れてかれたんだ」

「夏目が行きそうな場所だったら、『青い先輩』か『黄色い子』に訊いた方が早いかもね」



スバルの言う『青い先輩』と『黄色い子』は夏目と同じユニットに所属するアイドルの事。『青い先輩』は三年の青葉つむぎ、『黄色い子』は一年の春川宙を指す。「んじゃ、二手に分かれるか」と真緒の提案でスバルと真が三年の教室へ、北斗と真緒一年の教室へと二つに分かれた。

先ず、三年の教室に向かったスバルと真の二人。階段を上がって三年のフロアに来た。スバルは普通にしてるが真は何故か周囲を警戒しながら歩いていた。



「どったのウッキ〜」

「う、うん…。泉さんに見つからないか心配で…」



モデル時代の先輩で強豪ユニット『knights』に所属するアイドル。病的なまでに真を気に掛けるその姿をスバルは嫌という程知っている。『DDD』の時に散々苦労させられたのだから。だが、最近はマシになったかもと真も思っていたのだが…不安なのは不安らしい。スバルの背に隠れ慎重に三年B組の教室に到着した。窓から教室内を見ようとした真の横で「青い先輩はいますか〜!」とスバルは教室に突入した。慌てる真を気にせず、突然の訪問者に驚いたつむぎは読んでいた本を落とした。


「わわ、声大きすぎたかな」

「す、すいません青葉先輩、驚かせちゃったみたいで」

「いえいえ、気にしてませんよ。若い子は元気に限りますから〜。それで二人は俺にどんな用事が」

「それがね…」



訪問者二人の訪問理由を静かに聞いていたつむぎが難しい顔をした。



「そ、それは大変ですね。早く見つけてあげないと転校生ちゃん…ええっと、佐藤美央ちゃんって言うんですよね?日々樹くんの悪戯で気絶しちゃう子なら、夏目くんの悪戯でも気絶してもおかしくないですし…」

「ええっ!?そんなぁ、明星くん、早く転校生ちゃん見つけてあげないと!最悪、二人揃っている可能性があるからね!」

「そうだねウッキ〜!ねね、青い先輩!夏目がいそうな場所に心当たりない!?」

「え、え〜と、明星くん達の話からして、日々樹くんが夏目くんに美央ちゃんを連れて来てって頼んだのなら、夏目くんがいそうな場所より日々樹くんがいそうな場所の方がいいんじゃ、」

「「あ」」



そう言われて、二人は顔を見合わせた。そういえば、夏目が転校生を連れ出したのは昨日の件を謝りたいと言った渉のお願いで実行したのだ。なら、夏目がいそうな場所じゃなく、渉がいそうな場所を探さないとならない。すっかりとその事が頭から抜け落ちていた二人が揃って今更な反応をしたが、直ぐに演劇部の部室に誰もいなかったとつむぎに説明した。夏目ならまだしも、渉のいそうな場所に彼も心当りはない。演劇部の部室にいないのなら尚更。

ということで、直ぐ様真が北斗のスマホにメッセージを送った。つむぎとのやり取りを入れて。返事は1分もしない内に電話で来た。



『遊木…すまん。部長がどこにいるかは俺にも分からん。部室にいなかったのなら、学院内の何処かにいるのは明白なんだが…』

「そっか…氷鷹くんでもか…。そろそろ次の授業も始まっちゃうし、昼休みに改めて探す?」

「でも、転校生昨日に続いて今日も授業に出られないのは可哀想だよね。あんずも今日の放課後から、転校生にプロデューサーの仕事を教える前に各ユニットと顔合わせをするって言ってたから、早く見つけなきゃね」

「因みに、今日顔合わせするユニットはもう決まってるんですか?」

「えっと、確か…『UNDEAD』だよ。何か、話を聞いた朔間先輩が『見てみたい!その昭和の眼鏡嬢ちゃんを』ってあんずにお願いしたみたい」



もしも此処に夏見がいたら、単に会いたい口実を作っただけじゃないと冷めた目で見られるのがオチ。






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