何処にいても同じ




不意に目を覚ました夏見の身体は鉛の如く重かった。結局、零が飽きるまで行為は続けられ、終わると緊張の糸が切れたかそのままプツリと意識を失った。酷い怠さと喉の痛み、腰の方も少し動こうとすれば鈍痛が襲う。最悪だ、昨日零が宣言した通り行動するならこれから毎日同じ事をする羽目になる。長い溜め息を吐くとそういえばここは何処だろうとふと思うと、自分の背中と腰の間に人の腕が回ってあるのを確認。よく見ると狭い中で零に抱き枕にされている。一人なら丁度良い空間に二人いれば狭くなる筈だ。



「零の棺桶の中か…。零、腕離して」

「…」

「…寝てるから聞こえてないか」



寝てる時も拘束力が強いな、と回されている腕から逃れ、棺桶の蓋を押した。重っ、と思ったのは言うまでもない。微かに開いた隙間から外を覗いたら、室内は暗闇に包まれていた。少なくとも、あれから数時間が経っているのは明白。最悪だといわんばかりの溜め息を吐き、零を起こさないよう慎重に棺桶の中から脱出。足を床につけて気付いたが今の自分の格好はサイズが2つ位違うブラウスとブラウスの丈が大きすぎて見えないが制服のスカート。靴は履いてない(当たり前か)。光が一切ない暗闇を臆する事もなく移動する。幼い頃から、殺しをするのは何時も夜だったせいもあってか、夜目には自信がある。ブラウスの余った部分をスカートの中に入れ、取り敢えず2-Bの教室へと足を向けた。そこに荷物を置いたままなのだ。

誰一人いない学院の廊下。光もないそこは、地獄か、はたまた永遠にさ迷う幽鬼の世界か。

元いた学校のクラスメートなら、今の状況を肝試しとして楽しんだに違いない。夢ノ咲学院には、幾つか怪談があったがどんな話だったか忘れてしまった。『彼』がそういった恐い話に極端に弱かったからかもしれない。

迷いの無い足取りで目的地に着くが施錠されて中に入れない。が、夏見には関係がない。もしもの時の為にと用意していた小道具の一つで鍵を開けた。中に入り、教卓に置きっぱなしの鞄を発見し、中を探って携帯を取り出した。教室の電気を点けて警備員に見つかりでもすれば面倒になるのは必定。携帯の明かりで我慢しようと電話帳を開いた時だった。



「な〜にをしとるんじゃ?」

「っ!?」



声がしたかと思った同時に電気が点けられた。慌てて振り返ると寝ていた筈の零が電気のスイッチに手を置いたままもう片方の手を振っていた。



「な、なんで…起きてたの?」

「お主が軽音部の部室から出る辺りで…の」

「(全然気付かなかった…!…零にとって、暗闇は庭みたいなもの。気配を殺して後を追うのなんて簡単…最悪だわ…)」

「で?ここへは何をしに?どうも、荷物を取りに来ただけ、とは見えにくいんじゃが?」

「っ…」



先程、取り出した携帯は振り返る前にスカートのポケットに隠したので零にはバレていない。ある相手に連絡を取り、そのまま窓から飛び降り学院を出ようとしたのだが―――相手が悪過ぎる。零を相手に上手い言い訳は出来ない上、じりじりと此方へ近付いてくる零を無視して窓から飛び降りるのも不可能。飛び降りる寸前で零に捕まるのは目に見えている。かといって、異能力を使って逃げるという手段もあるが夏見は暫く異能力は使えない。仮に、使えたとしても今回の潜入捜査で異能力を使用するのは禁じられている。学院側が生徒達の前で決して異能力を使うなと釘を差したのだ。夢ノ咲学院は、横浜から一時間以上も駅が離れた場所にある。世界中の誰もが異能力の存在を知っている訳ではないが学院があるこの地域では、異能力の認知度は横浜と比べると天と地の差があった。残る手段は得意の蹴りで隙を作って逃走…だが、



「(後のしっぺ返しが恐い…)」



ということで、あっさり零に腕を掴まれ近くの机に押し倒された。背中を強く打ち、痛みに顔を歪めるが見上げた零の妖艶でありながら見る者をゾッとさせる恐ろしい笑みで言葉を失う。



「なぁ、我輩がそう簡単に逃がすと思うか?漸く戻ってきた可愛い愛玩(オモチャ)を」



何時からだった…彼等の気が急に狂い始めたのは。少なくとも、そうなったのは自分のせいだと思い込む夏見に噛みつくようなキスをする零から逃げる意思は無かった。性急な手付きで肌を撫でる手に自身の手を重ね、空いている腕を零の背に回した。







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