どうでもいいことはない


どうしたもんかな…これ。

渉くんの提案はこうだ。新しい『転校生』は早く来すぎて学院内を散策している所、作曲に没頭する余り寝てしまった『王さま』を発見。人が倒れているとパニックになっている所へ運悪く渉くんのドッキリに遭遇して気絶してしまった―――というシナリオ。何というか、ただの不運な『転校生』というイメージしかつかないシナリオだけど渉くんが自信を持って太鼓判を押すから信じるしかない。気球に乗る前に零にやたらともう少しだけでいいからと抱きつかれて、もういいでしょと離そうとしても頑なに離そうとしなかった。一発腹に決めようとした所で漸く零は離れ、私は渉くんと眠る『王さま』が待つ気球に乗った。



「はあ〜あ…なんでこうなるかな」

「フフフ、夏目くんが見つけてなくても何れはバレていたかもしれませんよ?」

「そっかなぁ?バレない自信はあったよ。新しい『プロデューサー』は飽くまでも今の『プロデューサー』が回らない分を助けるただの助っ人的な扱い。無名なユニットやアイドルが担当だから、強豪ユニットや有名アイドルには一切近付かなくて済む。クラスメートとしても必要最低限の会話で済ませる予定だったし」

「おやおや、本当に困った人ですね」



そんな非道な子に育てた覚えはないと嘆く渉くん。渉くんに育ててもらった覚えはない。私を育ててくれたのは婆やと……煙草のお兄さん、それから婆やの知り合いのおじさんおばさんだけ。煙草のお兄さんにはまだ会えていない。待っていたらきっと会える。乱歩さんに言えば探し当ててくれるだろうに、私情な上名前も職業も何も分からない人を探してほしいとは流石に言えない。

眠る『王さま』の頭を膝に乗せた。作曲に夢中になって寝てしまうのは相変わらずだね。昔みたいに頭を撫でてると寝言であの時私が使っていた名前を紡いだ。



「昔の夢でも見てるのかな…良い思い出なんか一つもないのに」

「私はありますよ。楽しい事も苦しい事も悲しい事も全部覚えています。あなたは覚えていませんか」

「覚えてるよ。でもなんでか…所々抜け落ちてる感じがあるんだよね。どーでもいい事だからかな」



何でだろう、彼等との思い出は覚えているのに他が結構曖昧。言葉通り基本どうでもいいから気にしてないけど、『王さま』との思い出は確りと覚えている。あ、ち〜ちゃんとの思い出も。

『五奇人』だけじゃない。他の皆との忘れられない思い出は…沢山ある。どうでも良くなんて無い。

一度どうでもいいと思うと何が起きようがどうでもいいと思うようになったのは幼い頃からずっと。婆や曰く、爺やそっくりらしく。どうでも良いことはホントにどうでもいいから今更変えられやしない。



「夏見。ちゃんと私が言った通りの指示で動いてくださいね」

「うん。分かってるよ。信じてるよ渉くん」

「フフフ、お任せを」



渉くんの考えたシナリオ通りにするため、私は『王さま』の頭をそっと膝から下ろし眼鏡を掛けて寝たフリをした。「後でちゃんと聞かせてください。そんな面白い眼鏡何処で買ってきたかとても気になります」起きていたら絶対突っ込みを入れていたであろう台詞を呟いた渉くん。今は寝ているのだから反応しちゃいけない。



「…」



行方不明の生徒を見つけ、犯人を見つけ逮捕―――。

名探偵が推理すれば一瞬で片が付く事件。乱歩さんが私に白羽の矢を立てたのはきっと一年前が関係している。誰にも話してはない。知っているのは隣に住んでいる人だけの筈…。





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