3つの色




放課後になれば、生徒達の行動は様々。掃除をしたり、部活動に励んだり、ユニット活動があったり、校内アルバイトをしたりと。担任のHRも終わり、今日の放課後は『Trickstar』のレッスンがあるあんず。バスケ部に所属しているスバルと真緒、演劇部に所属している北斗の三人は部活を終えてから集合となるので先に真と借りておいたレッスン室に行く予定となっている。



「は〜あ〜、結局『転校生』見つからなかったね」

「本当に来ていたのかな?」

「佐賀美ちゃんは今朝会ったって言ってたから間違いないんじゃない?『転校生』は明日に期待して、体育館に行くとするよ。ち〜ちゃん先輩が昼休みやたらと気合いの入ったメール送ってきて行くの嫌だけど…」

「あはは、明星くん部長さんに愛されてるね〜」

「それ言うなら、ウッキ〜だって瀬名先輩にすご〜く愛されてるじゃん」

「うえ!?あ、あんな病んだ愛はいらないよ!(『DDD』の時も同じ台詞を言った気がする)」

「…」

「あれ?氷鷹くん難しい顔してどうしたの?」



スバルと真の二人があんずの席近くに来て楽しく談笑している傍ら、携帯と睨めっこしている北斗に気付いた真が声を掛けると歯切れの悪い返事をした。気になって三人が画面を覗くと花の画像が映されていた。「綺麗な花だね」とあんず。



「あぁ…送ってきたのは変態仮面なんだが…送ってきた理由がさっぱりでな。意図を掴みかねている」

「それで難しい顔してたんだね。これって何の花かな?」



「『雛菊』って名前だったよ」真の疑問を北斗ではなくスバルが答えた。彼の青色の瞳はどこか懐かしさを孕んでいた。



「…懐かしいな」

「そうか……明星も知っていたんだな」

「うん。かなり可愛がってもらった方だからさ、よく知ってるんだ。ホッケ〜は?」

「俺の場合は部長絡みだ。俺も世話になったからな」



二人だけの世界に入っているスバルと北斗。顔を見合わせ話が見えないあんずと真。演劇部の部長から北斗に送られた『雛菊』の花は二人にとって大事な思い出らしく、懐かしそうにする反面―――スバルだけ何処か暗い色を帯びていた。何があったか聞きたいがとてもそんな雰囲気じゃない。気まずい空気を払拭しようと真がその『雛菊』の画像はどこで撮ったのかなと口を開いた。



「周りの風景が見えないから何とも言えないな」

「もし、ガーデンテラスで咲いてたら見に行けたのにね」

「じゃあ明日、サリ〜も連れてガーデンテラスで探してみよっか!宝物探しみたいで楽しそうだしさ」

「お、いいね〜」

「それより、明星は早くバスケ部に行かなくていいのか」

「それを言うなら北斗くんもでしょ?」



あんずにそう言われると「今日の部活は中止だ」と告げた。何でも、今日の演劇部の活動中止の本文と一緒に画像が送られてきたのだとか。どうやら北斗が難しい顔をしていたのは、本文と一緒に画像があったから。部活の中止と花の画像に何か関係があるのかとずっと悩んでいたらしい。

取り敢えずは部長の意味のない嫌がらせだと一時保留としてB組もHRが終わったのか、真緒がやって来て集まって何やら楽しそうな四人の中に混ざった。詳しい話を聞いて写真を見た真緒も懐かしそうに目を細めた。ふと、あんずは真に訊ねた。



「真くんは懐かしいとかないの?」

「僕?うん全然…。三人が同じ様に懐かしそうにしてるの見てたら仲間外れにされた気分でちょっと悲しいけど」

「私も。でも、大事な思い出なんだねきっと」



『大事』…

確かに。彼等にとって、この花はある一人を思い出させた。ただ、三人にとっての一人に抱く思いは違う。

一人は自分をよく可愛がってくれた優しい先輩という思い

一人はボロボロで今にも死にそうなのに命懸けで舞台に立つその人の後ろ姿を思い出し

一人は決して消えない傷を負わせてしまった負い目を思い

一人一人、抱く感情は違う。

三人の内、二人は決して口に出来ない思いを抱く人の事を思い出していると急に周囲が暗くなった。雲が太陽に被ったかと思ったが本日の空に雲は一つも無かった。―――とすれば、



「ふふふ、何だか元気がありませんね北斗くん!そんな時こそ叫びましょう、Amazing!と」



急に太陽の光が消えたのは気球に乗った北斗の所属する演劇部部長の日々樹渉のせい。お決まりの台詞と意味不明な登場の仕方に耐性が出来ている北斗が応対するものの、他のメンバーは何度遭遇しても慣れず固まっている。因みにさっきから『雛菊』の細い花弁が舞っている。



「メールといいあんたの登場といい、何だって言うんですか」

「言葉が刺々しい上に少々苛ついてますね。私が送った写真を懐かしんでいたら私が登場したもので折角の思い出も台無しだ、と怒っているのですね〜?」

「はぁ……所で部長、急に今日の部活を中止するといい、写真を送るといい、一体何を、」



途中で言葉を切った北斗の表情が変わった。渉が乗る気球には渉以外の人物が二人いた。「私が空中散歩をしている途中発見しまして」と説明する渉は、熟睡している二人の内一人を抱え教室に入った。「月永先輩!?」と驚いたあんずの叫び声で真緒は彼と同じユニットに所属しているクラスメートが放課後になったら探さなきゃと言っていたのを思い出し、まだ教室にいるかもしれないと言って出て行った。

黄昏色の少し長い髪を適当に結ったそれは可愛い尻尾みたいに垂れている。子供のような寝顔ですやすやと眠るのは夢ノ咲学院の強豪ユニットの一つ『Knights』のリーダー・月永レオ。自他共に認める作曲の天才で周りや彼自身も彼を『王さま』と呼んでいる。ただ、作曲を始めると周りが見えなくなり度々人に迷惑を掛けるのは日常茶飯事、今日も恐らく作曲に夢中になりすぎて途中で力尽きて寝てしまったのだろう。

真緒が隣のクラスから同じ『Knights』の鳴上嵐を引っ張って来た。探す手間が省けて良かったが何処にいたのかと問えば、もう一人の乗客を抱いて気球から教室に戻った渉が校舎裏の中庭だと答えた。

彼に抱かれているのは銀髪の女子生徒。『アイドル科』であんず以外に女子生徒がいるのならそれは一人しかいない。



「倒れている『王さま』さんを見つけて吃驚した直後に気球に乗っている私にも吃驚して気絶しちゃいまして。放置することも出来ませんので目を覚ますまで私が二人共預かっていました」

「「「…」」」



皆が探していた新しい『転校生』が何故其所にいたのかは不明だが見つかって良かったとあんずは胸を撫で下ろした。




―――渉に抱かれ寝たフリをしている夏見は渉の作戦に乗って少し後悔した。



「(ああ…渉くんの提案を何も考えずに呑むんじゃなかった……かなり楽しんでる…。『殿さま』保護できて良かったけど)」





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