よっつめ
└十三
何日経っても、何ヶ月経っても、坂本家での私の扱いは同じだった。
至らない自分が二人を苛々させるのだと、自分なりには努力はしていても、それを認められることはない。
罵られ殴られる回数も、ただただ増えていった。
でも、姑が言っていたように医者にだけは診せてくれた。
それだけでも、その時の私にはありがたかった。
今思えば、何か大事な判断力が欠けていたのかもしれない。
これが普通なのだと言われたら、この頃の私はそうなのかと納得してしまう。
「美津、貴臣はどうした?」
「出掛けてます」
「……ったく…あんたがそんなだから貴臣も家にいるのが苦痛なんだろうよ」
「…すみません…」
…貴臣は、外に女がいた。
足繁く通っていたところを見ると、恐らく廓ではなく普通に暮らしている人なんだろう。
傷付いていなかったといえば嘘になる。
いつか元気になれば子供も欲しいと思って、幸せになりたいと願って嫁いだのだから。
でも、何も言えない私を甘く見たのか、貴臣は愛人を家に連れてくるようになった。
「おい美津!さっさと酒の用意をしろ!」
「あぁ、あと酒の肴も!」
私よりも年上であろう、女性が貴臣にしな垂れかかりながら私に指示をする。
貴臣は彼女の肩を抱いて、いつもの蔑んだ視線を向けていた。
「お酒は…さっきので終わりです」
「あぁ?だったら買いに行って来い!」
ガッ
「っ!!」
乱暴に叩きつけられた徳利が私の額に当たる。
「ちょっとぉ、いくらなんでもやりすぎ。奥様なんでしょう?い、ち、お、う」
「ふん、気が利かないんだからこれ位しなきゃわからないんだよ!」
額を押さえて震える私を見て、クスクスと女が笑った。
「おら!さっさと行って来い!金食い虫の役立たずが!!」
「は、はい…っ」
貴臣がさらにお猪口を投げようとする仕草を見て、私は慌てて部屋を出た。
閉じた障子の向こうから女の笑い声と、貴臣の笑い声が響く。
居た堪れなくなって急いで廊下を渡ると、その奥で姑の姿が見えた。
しかし彼女はふんっと鼻で笑うと、すぐに自分の部屋に引っ込んでいく。
どうしようもない気持ちと、額の痛さを抱えたまま私は夜の町に急いだ。
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