ふたりぼっち | ナノ




よっつめ
   └十二



「この役立たず!」



ばしっ



「う…っす、すみません…!」



坂本家に嫁いでから…

私の思い描く生活は、全くの幻だと思い知った。



「少し体が弱いからって甘ったれるな!」

「あ…!すみません…すみません…!」



坂本家は確かに裕福な家だった。

でも、蓋を開けて見れば、横柄で乱暴な冷たい家族。


私も若くて世間知らずだったから、きっと至らない事も多かったと思う。

それでもやる事なす事否定され罵られ、頬を叩かれるのはとても辛かった。




「ほら、貴臣(たかおみ)程ほどにおし」

「お、お義母様…」

「前の嫁みたいに逃げられたらまた恥だからね。それに死なれても困るから医者にだけは診せるんだよ」

「……!!」



倒れこむ私に投げられる視線は、いつも蔑んでいて冷たい。

二言目には「役立たず」「貧乏人が」と吐き捨てるように言われた。




「貴臣、おいしい葛きりをいただいたからお茶にしましょう」

「あぁ、いいね葛きり……おい美津、いつまでも寝転がってないでさっさと掃除でもしろ!」




ぱしんっ!と障子を閉めると、二人は楽しそうに笑いながら居間を後にした。

「役立たずの貧乏人を嫁にもらってやったのに」

「表向きだけ後妻として周りに知れてれば…」


そんな会話を交わしながら。




「…う…っふ…っ」


唇を噛んで声をどうにか押し殺す。

ぱたぱたと落ちた涙が畳に染みていった。




(…だめ…泣いてなんて…)



この家に嫁いで数日後。

父に持たされたあのお金は、実家の店を畳んで作ったと知らされた。




「美津…幸せに…幸せにな…」




どんな思いで父が私を見送ったのか…

そう考えると、泣き言など言ってられない。



「…家事…家事をしなきゃ…」



私は着物で涙を拭うと、痛む頬に気を向けないようにして淡々と掃除をした。



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