みっつめ
└十八
『…早速』
「え?」
薬売りさんはニヤリと笑うと、かたんっと席を立った。
そしてお団子を一串手に取ると、私に差し出す。
『結はこれを食べて待っていなさい』
「え、ちょ…」
『さぁお食べ。はい、あーん』
「薬売りさ…むぐっ」
半ば強引に私の口にお団子を押し込むと、そのまま薬売りさんは彼女達の方へと歩いていった。
『こんにちは』
「あら…こんにちは」
にこり、と笑った薬売りさんに、彼女達の顔色が一瞬にして変わる。
互いに顔を見合わせながら、視線だけで会話をしているようだ。
「あなた見ない顔ね…旅のお方?」
一人の女性が声を掛けると、他の人たちはそわそわしながら髪やら襟元をささっと直した。
『えぇ、お嬢さん方の楽しそうな様子が気になりまして…つい』
「あらやだ…うるさかったかしら…ね?」
女性達はきゃっきゃとはしゃいで笑い合う。
「…………」
お団子を咥えたまま、その様子を私はぼんやりと眺めていた。
(……相変わらずですこと…)
複雑な心境のまま、これは情報収集だと自分に言い聞かせる。
とは言え、何となく直視できなくて。
目を逸らして、耳だけは傾けていた。
すっかり溶け込んだ薬売りさんは、ちゃっかり彼女達と一緒に席についている。
『先ほどから何をそんなに盛り上がっているんですか?』
「…!それがね…」
薬売りさんの隣の女性が、意味ありげに声を潜めた。
「最近よく噂で聞くのよ、この辺りにろくろ首が出るって…」
(!!)
薬売りさんの読み通り、彼女たちの噂の種はどうやらろくろ首のようだ。
私はお団子を噛むのを忘れて耳を傾けた。
「私の隣のご主人がね、大通り沿いの飲み屋で飲んだ帰りに見たんですって」
「そうそう!うちの姑もね、夜にどうしても使いがあって大通りを遅い時間に歩いてた時に…」
「それに角のおうちの婿さんも…」
女の人達はやいのやいのと自分の知っている噂話を薬売りさんに披露していく。
薬売りさんは黙ってそれを聞いていたが、何か考えているようにも見えた。
その後も女の人達は盛り上がり続け。
薬売りさんが戻ってくる頃には、もうお団子も食べ終わってしまった。
『はぁ…かしましい…』
「おかえりなさーい」
『…もうお団子は食べ終わりましたか?』
「あ、はい、食べちゃいました」
『では…行きましょう』
眉を顰めたまま首をゴキゴキっと鳴らすと、薬売りさんはすたすたと御茶屋を出て行く。
「あ、待ってください!」
慌てて追いかけながら、チラッとさっきの彼女達を振り返る。
三人は興味ありげに私達をチラチラ見ていて。
私と目が合うとそそくさと目を逸らしてまた噂話に没頭し始めた。
(…あんな話してて怖くないのかな…?)
再びキャッキャと話に花を咲かせる彼女達に首を傾げながらも、私は小走りに薬売りさんを追ったのだった。
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