ふたりぼっち | ナノ




ふたつめ
   └十六



ぱきん…っ


――こんばんは、家鳴りさん



みしみしみしっ



――うん、今日もみどりが悪い人から助けてくれたの




まるで家鳴りが奏でるようにあかねちゃんの声が届く。

理解できない状況に、思わず薬売りさんの着物を掴む手に力が篭る。




「…く、薬売りさん」

『……記憶、ですね』

「記憶…?」

『家鳴りと彼女の、記憶ですよ』




ぱし…っ



――みどりはね、私のこと守ってくれるの



ぱきんっ



――ほら、このお手玉、みどりが作ってくれたのよ




この家に来たときの事を思い出した。

うるさいくらいに続く家鳴りに微笑んで見せたあかねちゃん。



"ここにはたくさん話し相手がいるから"



その言葉の意味を、漸く理解した。




『…彼女は何かひとつ、もって生まれなかった代わりに…きっと怪の言葉を聞き話しかける術を持っていたのでしょう』



この部屋でみどりくんと過ごす合間に、家鳴りと色んな話をしたのだろうか。

私達が友達とするような、内緒話を何度もしたのだろうか。


私はいつの間にか零れていた涙を拭うと、静かに聞こえてくる声に耳を傾けた。




――私ね、知ってるの。もうすぐ死んでしまうわ



みし…っ



――ううん、怖くなんかないわ。だって、いままでみどりにたくさん心配かけたし…色んな事を我慢させてしまったもの



ぱきんぱきんっ



――みどりは私に付きっ切りだったから…本当は外でたくさんのお友達と遊んだりできたはずだわ



ぱしん…っ



――…私が死んだらみどりは自由になれるかしら?






「そんな事…!馬鹿な事を言うな!!」



ずっと黙っていた私達だったが、とうとうみどりくんが声を上げた。

みどりくんはあかねちゃんの頬を同じように両手で包むと、声にならない声を彼女にぶつける。


それが怒りの声なのか悲しみの声なのか…

きっと二人にしかわからない。


お互いの頬を包みあうのが照れ臭かったのか、あかねちゃんが小さく笑った。




「…みど、り…真似っ子、ふふっ」

「…馬鹿…あかね…はは、ばぁか…」



二人はおでこを摺り寄せながら泣き笑いしていた。




「………っ」



物凄く泣きたくて、今すぐどうにかして欲しいと薬売りさんに言ってしまいそうで。

かと言って滲んだ視界の中の二人から目を逸らすこともできなくて。


私はぎゅっと唇を噛んだ。




『…………』



薬売りさんは真っ直ぐ彼らを見ながら、着物を掴んでいた私の手を解くと、そっと握り締める。



「…………」

『…………』



私も彼らを見つめたまま、薬売りさんの手を握り返した。

そしてまた家鳴りに混じって、内緒話が聞こえ始める。




――死ぬのは別に怖くない…でも、みどりと離れ離れは嫌だな



ぱきっ



――…生まれ変わったら…?そうだなぁ、うーん…あ、生まれ変わったら猫になりたい!



ぱしん…っ



――真っ白な猫になるの。そしたらみんな私を怖がらないし、みどりともずっとくっついていられるわ



みし…っみしみし…っ



――…うん…私はみどりが大好きだから…ずっとずっと一緒にいたいの。みどりとくっついていたいの



ばき…んっ



――大好き…大好きよ、みどり…生まれた時から死ぬ瞬間まで、ずっとみどりだけが大好き



ぱん…っ



――家鳴りさん…私ね、ひとつだけ願い事があるの。叶えてくれる?




――もし…ひとつだけお願いを聞いてくれるなら、私……



ぱん…っ!!



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