ふたつめ
└七
「…こんな所に神社が…」
『あまり機能はしてないようですがね』
先程の場所から少し山のほうに行くと、寂れた神社にたどり着く。
あまり手入れのされてないそれは、日の高い時間でも薄暗い。
その雰囲気がさらにこの村の貧しさを語っているような気がした。
『…少し休憩しますか』
「え、ここでですか…!?」
『大丈夫ですよ、ここは』
うろたえる私を尻目に、薬売りさんはさっさと境内に腰掛ける。
(…薬売りさんが"大丈夫"って言うなら…だ、大丈夫なんだよね…?)
私はビクビクしながら薬売りさんの隣に座った。
振り返ればすぐ後ろに荒れた社があって。
不気味さに負けて、中を覗く勇気は出なかった。
「…って、薬売りさん!?」
『何です?』
ふと横を見れば、薬売りさんは袂からあのお手玉を取り出して、掌で転がしている。
「持ってきちゃったんですか…!?」
『別にいいでしょう?』
「ダメですよ!誰かの物かも知れないじゃないですか!」
『ふぅん』
「ふぅんって……ぶっ」
薬売りさんは慌てる私の口を塞ぐと、『しっ』と人差し指を立てた。
何が何だかわからずに目をぱちくりしていると。
「………か?もうす……」
「…りがと…でも…」
さわさわと草が揺れる音に混じって、人の声が聞こえてくる。
(男の人…と、女の人もいる…?)
薬売りさんは社の裏手をジッと見て無言のままだ。
「…丈夫だ、俺がいるから…」
「うん、みどりが…」
やがて私達が見つめる方向から、人影が現われた。
「…!!」
姿を見せたのは、私より少し年上であろう男の人。
そして彼の背中には、一人の女の人が背負われている。
でも…
(…何であんなに深々と頭巾を…?)
背負われた女の人は、その姿に似合わない大きな頭巾を被っていた。
かろうじて覗く口元から、色の白さが窺える。
「…あんたら」
「あ……」
『…………』
男の人は私達を驚いたように見つめていたけれど、見る見るうちに険しい顔つきになった。
そして背中の女の人を庇うようにこちらに向くと、憎々しい瞳で睨みつける。
「あんたら…あの下衆な奴らの仲間か!?」
「え…!あの、私達は…」
誰のことを言っているのかはわからないけれど、どうやら人違いされているようだ。
立ち上がろうとした私を見て、彼は一歩後ろに下がる。
不安そうに背中から回された、細くて真っ白な腕が彼の着物をキュウッと握った。
(わ…すごい警戒されてる…!)
困って薬売りさんに声を掛けようとしたとき。
「あ…!私のお手玉…!」
「え!?」
背中から細い指が、真っ直ぐに薬売りさんの掌のお手玉を指していた。
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