ふたつめ
└六
だいぶ陽が高くなったころ。
私達は薬売りさんの宣言通り、周囲の散策をしていた。
「…ずいぶん静かなところですね」
その村は、人も少なく。
小さな民家がぽつぽつとあるだけだ。
畑はあるものの、私がかつて育った場所とは比べようも無いくらい活気が感じられない。
そして畑にいる人は、決まって私達を訝しい目つきでジッと見た。
でも、薬売りさんの背負った箱を見て、何だか妙に納得したようにまた農作業に戻っていく。
『どこも栄えているわけではないですからね。むしろ田舎はこの程度の村が普通でしょう』
「そうなんですか…」
活気ある町で、それなりに裕福な武家に生まれて。
今まで生活していたのも栄えた宿場町だった。
こうして自分の足でいろんな場所を見ていると、自分がどれほど恵まれていたか良くわかる。
そして私の見ていた世界は、小さな小さな、ほんの一部だと思い知る。
「……ん?」
一人感傷的になっていると、人影に気付いた。
田舎の村に、ずいぶんと上等だろう派手な着物を身に着けた人がさくさくと畦道を歩いている。
(…なんか…変な感じだなぁ)
この寂れた風景に、どうにも馴染まない。
ただでさえ自分達がまるで異分子かのような視線を受けた後だ。
私はついつい、その姿を凝視してしまった。
『……客人、ですかね』
薬売りさんも気付いていたのか、同じ方を見てぽつりと呟いた。
「あ…そうなんでしょうか?なんだかこの村の人って感じじゃないですよね?」
『まぁ…あんなド派手な着物なんて好む辺り、碌な者じゃないでしょうね』
「…………」
薬売りさんだって着物の柄については……っていうのは置いといて。
やっぱり私達以上に浮いた存在に見える事は確からしい。
「…………」
何だか昨晩暗闇で見たあの赤いお手玉のようで、私はこっそりと身震いした。
『…結?』
「あ、はい!」
先に進もうとした薬売りさんに呼ばれて、私は慌てて彼のあとを追った。
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