ふたつめ
└三
『…もっと強く』
「あ、はい」
『……もっと』
「へ?はいっ」
『……もっと』
「んんん!!はいぃいい!!!」
もうだいぶ力一杯揉んでいるんだけど。
薬売りさんはぴくりとも気持ち良さそうにも、痛そうにもしてない。
(んんんーーーー!!!)
さらに力を込めてぎゅうぎゅうと押していると、私の親指はぷるぷると震え始める。
すると。
『…………っ』
「……え?」
『…ぶふっ…』
顔を俯けたまま、薬売りさんの肩が揺れている。
「……薬売りさん」
『…くくっ…』
「もう!何笑ってるんですか!」
ぺしんっと彼の肩を叩くも、どうにも我慢ならない様子で薬売りさんは笑いを堪えていた。
『ゆ、ゆび……っぷるぷる…くくっ…』
「え、ええぇぇ……」
どうやら"指がぷるぷる"が薬売りさんのツボにはまったらしい…
(な、なぜ……)
ぽかんとする私を尻目に、薬売りさんは声を上げないまでも、くつくつと噛み殺した笑いを漏らし続ける。
ただ…
(…せっかく笑ってるのに…見えないなぁ…)
うつ伏せのままの薬売りさんの笑顔は、私からは見えない。
からかわれてるのはわかっているものの…
「ふふっ」
やっぱり薬売りさんが笑っているのは、私も嬉しい。
私がクスクス笑っていると、薬売りさんは不意に体をごろりとこちらに向ける。
そして黙って両手を広げた。
「……?」
『…何してるんです、寝ますよ』
「えっ」
薬売りさんは広げた両手をぷらぷらと揺らす。
(こ、これは……)
私に…薬売りさんの胸に飛び込め、と…?
そう思った瞬間、かぁっと顔に熱が集まった。
こんな暗がりでそれが見えるはず無いのに、薬売りさんは黙った私を見て、ふっと意地悪な笑みを浮かべる。
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