ふたりぼっち | ナノ




ふたつめ
   └二



『…さて』



少し奥まった小部屋で薬売りさんは足を止めた。


そしてやや考えるような仕草をすると、ゆっくりとぐるりを見渡す。

私もつられるように視線を追いかけてみたが…





「…………」




もうどれくらい人が住んでいないのだろう?

土壁は崩れ始め、天井には雨漏りの染みもできている。


そして何より…





びしっ


「ひゃあ!」


みしっ

ぱきぱきんっ




ひっきりなしに鳴り響く、この音。

これに不安にならずして、どうしろと言うのだ。




「く、薬売りさん、本当に大丈夫でしょうか…?」




もし休んでいる間に家が崩れでもしたら…

そう思うと休める気がしない。


しかし、薬売りさんは暗闇を見渡しながら、微かに唇の端を上げる。




「…!!」

『…大丈夫ですよ、この家は崩れません』

「な、なんでそんな…」

『何ででも…ほら、さっさと腹をくくりなさい』




そう言っておもむろに羽織を脱ぐと、それを床に広げた。

そしてそのままごろんっとうつ伏せに横になる。



「…………」

『…………』


(…汚れないのかな?)



物凄くどうでもいい心配をしながら、横になっている彼を見ていると。




『……何をしてるんです、早くしなさい』

「…へ??」

『肩揉み、するんでしょう?早く』



薬売りさんは俯けていた顔を上げると、イラッとした様子で私を睨んだ。

そしてまたぶつぶつと『肩が痛い肩が痛い』と低い声で繰り返す。



「わ、わかりましたってば!」



この暗がりで、そんな呪詛の様に繰り返さないでいただきたい…

私はとりあえず傍らに座ると、両手を薬売りさんの肩に伸ばした。





「こんな感じですか…?」



肩揉みなんて、扇屋を出た以来だ。

あの頃は仕事の合間を見て、よく絹江さんの肩を揉んだ。




(…でも絹江さん、座ってくれてた気がするんだけど…)



寝転がっている人の体を解すのは、結構難しいのだ。



2/19

[*前] [次#]

[目次]
[しおりを挟む]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -