ふたりぼっち | ナノ




ひとつめ
   └二十



――…一方、寺では。



「ぽ、ぽこくん…!?」



尻餅をついて後ずさる私に、ぽこくんがじりじりと迫る。




「…許さないぞ…人間達め…!」

「ぽこくん…」




さっきまで、ちょっと穏やかな空気が流れているくらいだった。

でも、今、彼の瞳は怒りで爛々としている。


私はうっすら漂う殺気にも似た空気を肌で感じていた。




「おい、ちょこ!もこ!」

「は、はい!」



ぽこくんに呼ばれた二匹が、慌てて彼のそばに走り寄る。



「…おっかあを返せ!!」


ぼん!!



「きゃ!」




三匹は体を寄せ合うと、一際大きな煙を上げた。




「けほっけほっ…!」



もくもくと広がる煙を手で払いながら見上げれば。




「……ひっ!」



そこには大きな蛇が鎌首を擡げて赤い舌をちらつかせている。

足の先から鳥肌が這い上がっていくのがわかった。


大蛇は大きく裂けた口を開け、シャーッと威嚇音を立てている。

口の両脇に生えた真っ白な歯牙が、妙に生々しく光った。




「い、嫌……っ!」



蛇を見たことが無いわけではないし、とりわけ大の苦手というわけでも…

でも、さすがに自分などひと飲みにされてしまいそうな、こんな大蛇では逃げようも無い



「……ぽ、ぽこくん達、だよね?」

「シャアァアーーー!!」

「きゃあ!」



震える声で呼びかけて見ても、大蛇は意に介さず私に向かって噛むような仕草を見せた。




(ダメだ、さっきみたいに話なんてできない…!)


「!!」




後ずさりする背中が、とんっと柱に当たった。

もう下がれないとわかりつつも、大蛇から視線を逸らして後ろを確認する勇気が出ない。




(…薬売りさん…っ!)



思わずその名前を叫びそうになったとき。




「シャーーーーッ!!」



ざんっ!!



「あぁっ!!」




大きく体をうねらせた大蛇の牙が腕を掠っていった。

打ち付けるような衝撃の後に、焼けるような痛みが走る。




「う…っ」



左腕を押さえると、掌にぬるっとした感触。

とは言え、見た感じ、深い傷ではないようだ。


でもだからこそヒリヒリと痛む。




「ぽ、ぽこくん…」



ぽこくん達が変化した大蛇は、再び高らかに鎌首を擡げると、大きな口をあけて舌を出した。




(…こんな…何で…?)



「…どうして人間を…そんなに怨むの?」




私の言葉を聞いて、大蛇が…いや、ぽこくんたちがビクッと揺れる。



…おっかあと呟いて泣いたとこちゃん。

"人間なんて大嫌いだ"と睨んだぽこくん。


そんな様子を見てぽたぽたと涙を落としたちょこちゃんともこちゃん…


そして…古い罠。




「もしかして…お母さんが人間に捕まったの…?」

「…!!」




大蛇がずずっと身を引いた。

ジッと見据えるように私を見る姿で、図星だと確信する。




「ねぇ、ぽこく…」

「………さい」

「え……」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!」



わなわなと大きな体を震わせたかと思うと、大蛇はそのまま勢い良く振りかぶった。

そして真っ赤な大きな口を開けて、私に向かってくる。




「敵を討ってやる…!覚悟しろ、人間め!!!」

「きゃああああっ!!」


(薬売りさん…っ!)




次に起こるだろう衝撃に、思わず自分の身をギュッと抱いた。

……が。



「え、え!?あ、と…うわぁああ!!!」



20/28

[*前] [次#]

[目次]
[しおりを挟む]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -