ひとつめ
└十九
― 終幕 ―
草を踏みしめる音がざくざくと続く。
行きは薬草を探し探し来たせいか、さほど感じなかったが、やけに寺までの道のりが遠く感じた。
(……結…)
昨晩、嫌味混じりに彼女へ辛辣な言葉をぶつけた。
もちろんそれなりに本音なのだが。
でも、結を窘めた"油断"が自分には無かったと言い切れるだろうか。
『…………』
あの日扇屋を出て、今まで結と二人。
この生活が心地よくて、結の笑った顔を見られることに安心しきってて。
もちろん警戒心を失った訳ではない。
でも結と出逢った頃のような、ぴりぴりと張り詰めた心持ちでは無くなったのは確かだ。
…そんな自分を差し置いて、結だけを責められるだろうか。
『……っ!』
薬売りはハッとして、素早く飛び退いた。
ガチンッ!!
鈍い金属音と共に、千切れた草が舞い上がり落ちていく。
「あ……!」
『…罠、か』
呆然とするとこの視線の先に、古びた罠が軋んで錆びた音を響かせていた。
薬売りに襟首を掴まれたままぶら下がるとこは、ぶるぶると震えてしまう。
「…ひっく…」
『…………』
「おっかぁ……」
べそをかくとこを薬売りは横目で窺いながら、一人納得したような溜息。
錆びた罠は反応が若干遅い。
しかしはまってしまえば、金具が上手く動かずに手こずるだろう。
自分には避けられたが、これが動物だったらどうだろうか…
『………なるほど、ね』
薬売りは『おい』と呟き、彼を目の前にかざす。
『いちいち泣くな、情けない』
「…ぐす…っ」
『…男だろう。結を助けて欲しいなら、女々しく泣くな』
ぶっきらぼうな薬売りの言葉に、とこはハッとする。
(…そうだ、お姉ちゃんを助けるんだ…!)
とこはキュッと唇を結ぶと、滲んでいた涙を拭った。
顔つきがしっかりしてきたとこを見て、薬売りはフッと息を吐く。
(…何で俺が面倒を見なければならんのだ…)
若干うんざりしながら、とこを睨んで。
『…次に少しでも泣いたら、喰う』
「…っ!!!!」
そう冷たく言い放つと、再び草を掻き分けて寺へと急いだ。
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