ふたりぼっち | ナノ




ひとつめ
   └十七



ざくざくと草を踏みしめながら、お寺への道を戻る。



「……………」

「すーすー…」




私の両手には疲れて眠ってしまったちょこちゃんともこちゃんが納まっている。

そして


「早くお茶飲みたい」


ぽこくんは私の首に襟巻きのようにしっかりと巻きついていた。




(お、重いし暑い…)



子狸とは言え、さすがに三匹は重い。


さっき私の乗っていた輿は、ぽこくんの刀の様に木の葉と枝に様変わりしてしまった。

あれに乗っていたと思うと、遅かれ早かれ私は地面に落下してたんじゃないだろうかと思う…




「さぁ着いたよー」



まぁ、そんなにお寺から離れていなかったのが幸いして、そうしんどくなる前に彼らを降ろす事はできた。

たたっと走ってぽこくんたちはお寺の中に入っていった。


あまりに慣れたすの様子に、昨日の仏像の目が動いたのも彼らの仕業だったのではと密かに思う。



「ふぅ…」



私はとんとんっと肩を叩きながら、台所へ向かってお茶の準備をした。




(…また薬売りさんに叱られそうだな)



さっきあんなに反省したのに、これじゃ今後お人好しや怠慢と言われても反論できない。




「は、話聞くだけだし…!」



私はわざとらしく自分に言い訳すると、人数分のお茶を用意して彼らの待つ部屋に向かった。




「お待たせしましたー」

「わーい!」

「お姉ちゃんありがとう!」

「い、いいえー…」



ぽこくん達は、子狸の姿のまま器用に湯飲みを持つとこくこくと飲んでいる。

段々とこの子達が狸なのか人間なのかよくわからなくなってきた…


私は混乱した頭をどうにか落ち着かせて、彼らを見ていた。


少しまったりとした時間を過ごした後、私はぽこくんに向き直る。

雰囲気を察したぽこくんも、少しだけ警戒したように私を見た。




「…今朝まで、とこちゃんはここにいたの」

「………」

「ぽこくん達はとこちゃんの兄弟よね?とこちゃんが私のところに来たのは、何か理由があるの?」



ちょこちゃんともこちゃんも湯飲みをギュッと握ったまま俯いている。




「…とこを偵察にやったのは俺だ」

「偵察!?」

「あぁ、お前、ここの坊主と知り合いか?」



ぽこくんがキッと私を睨む。

…狸だけど。




「…私達はただここで休ませて貰ってるだけで…お坊様に用事だったの?」

「用事も何も…!」




憤ったぽこくんの手から、がちゃん!と音を立てて湯のみが倒れた。

残りの二人も、張り詰めた面持ちで私達を見てる。



「アイツは俺たちのおっかあを誘拐したんだ!」

「え…!?」

「俺たちは見たんだからな!古い罠にかかったおっかあを、あの坊主が連れてったの、見たんだ!!」



ぽこくんの言葉を聞いて、ちょこちゃんともこちゃんがシクシクと泣き出した。



(とこちゃん…だから…)



昨晩の涙を思い出して、私の胸がずきんっと揺れた。

ぽこくんはまん丸の瞳を涙で濡らして、全身の毛を逆立てながら続ける。




「坊主は…いや、人間みんなそうだ!いつだって自分勝手で俺たちの山に入り込んで!おっとうやおっかあの仲間もたくさん食われたって聞いた!」



私はここに来て、漸く"人質だ"と言われた意味を理解した。

そして、今まで彼らからは感じなかった、憎しみや悪意を持つ者特有の空気のようなものを薄っすら感じ取っていた。




「…お前だって、どんなに優しくたって同じ人間だ」

「…ぽ、ぽこく…」



ぽこくんはべそをかいている妹と弟の前に庇うように立ちはだかると、牙をむいて唸る。



「人間なんて大嫌いだ…!おっかあの…おっとうとおっかあの敵を討ってやる!!」



17/28

[*前] [次#]

[目次]
[しおりを挟む]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -