ふたりぼっち | ナノ




ひとつめ
   └十六




「あの…お兄…さん?」

「あ?あぁ、俺はぽこってんだ」

「ぽこ…またそんな安易な…」



私はどうも呆れた顔をしてしまったらしい。

少しだけ振り返ったぽこくんは、ムッと眉間に皺を寄せた。


「ごほん!」とわざとらしい咳払いをして、質問を続ける。




「あの、もしかして、とこちゃんって…」

「おう!とこは俺たちの一番末の弟だ!」

「…………」



色んな線と点が繋がって、私は思わずぽかんとしてしまった。

そんな様子を見て、ぽこくんは少し得意気に笑う。



「ふふん、驚いてるんだろう?お前、すっかり騙されてたもんな!」

「あ、まぁ確かに…」



今朝までのとこちゃんとのやり取りを思い出しながら、彼の言っている通りだと思った。

…それはそれで、どうかと思うのだけど。




「あ、ねぇ、それで今とこちゃんは…」



と、言いかけたところで輿の後方がガクンっと落ちた。




「きゃあっ!」



転げるように輿から放り出される。

落ちた拍子に擦りむいてしまった肘をさすりながら見てみれば。




「お、お兄〜もう疲れたよ〜」

「もう担げない〜」

「お、お前たち!!」



後ろを担いでいたちょこちゃんともこちゃんが、へにゃんと座り込んでいた。


そりゃそうだろう、二人だってどう見ても私より小さな子供だ。

それに…




「お前たち!弱っちいこと言ってるんじゃない!」

「お兄、足がぷるぷるしてる」

「ほんとだ、ぷるぷる」

「う、うるさい!!」




そう言って二人に駆け寄ったぽこくんも、決して楽ではないらしい。

三人はお互いの赤くなった掌を見せ合いながら、ふーふーと息をかけている。



(か…可愛い…!!)



ついついほのぼのした視線を送っていると、一番小さなもこちゃんがぐずり始めた。




「…もう疲れたー!化けてるのも、疲れたっ!」

「あ、バカ…」


ぼんっ




ぼわんと煙が上がった後、もこちゃんの姿は小さな狸に変わっている。




(…やっぱり!)




やっぱり、この子達も狸だったんだ。

とこちゃんと、同じ子狸だ。


ぽこくんは焦ったように私と、すでに狸になってのんびりしているもこちゃんを交互に見ている。

すると、今度はちょこちゃんがぐずりだした。



「もーあたしもやだー!」


ぼんっ!



「あぁ!!!」



悲痛なぽこくんの叫びも厭わず、ちょこちゃんは子狸の姿に戻るとぎゅーっと伸びをする。



(あぁ……)



がっくりと項垂れるぽこくんがちょっぴり可哀想だった。

しかし彼も限界だったようで…



「あの…ぽこくん?」

「……??」



私がちょいちょいっと自分の頭を指差すと、ぽこくんはハッとする。

彼が慌てて頭を弄ると、ぴょこんっと生えた耳に手が触れ、またがっくりと項垂れるのだった。




「……くそ…っ」

「ぽこくん…」



悔しそうに唇を噛んだぽこくんの目に、うっすら涙が浮かぶ。

その表情が昨晩"おっかあ"と呟いて泣いていた、とこちゃんと重なった。


兄弟なのだから、当然なのだけど。


私は彼の傍に歩み寄ると、そっと顔を覗きこむ。

泣いているのがバツが悪いのか、ぽこくんはすぐに目を逸らしてしまった。



「…何か、話があるんだよね?」

「………」

「私も、今朝とこちゃんと別れてから気になってるの。話…聞かせてくれる?」




ぽこくんはそっぽを向いたまま、ギュッと目を瞑ると小さく頷いた。




(…と言っても…)



私はホッとしながらも、ちらりと後ろを振り向いた。


生い茂った草の隙間からまだお寺の屋根が見える。

彼らのがんばりに反して、たいして進んでいないようだ…




(この分だと、お寺に戻ったほうが早そう…)


「良かったら、お寺でお茶でも飲みながら話そう?」



私の言葉に、ぽこくんはまた無言のままで頷いたのだった。



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