いつつめ
└十五
ひぃぃぃ……
人魚岩に近づくと、一層風音が大きくなる。
その不気味さに若干たじろぎながらも、私は人魚岩の上に立った。
「…渚ちゃん!」
私の呼び掛けに、岩の先に立っていた小さな背中が振り返る。
「……昨日のお姉ちゃん」
「こんにちは」
渚ちゃんは近づいてくる私を探るように見つめている。
それでも拒絶はしていないようで、特に逃げる様子はなかった。
「海、見てたの?」
「うん」
「こんな高さから見ても怖くない?」
「全然怖くないよ」
隣にしゃがんだ私に倣って、渚ちゃんもちょこんと座った。
彼女の瞳は相変わらず私をじっと探っていて。
(それにしても…)
私は渚ちゃんの顔に思わず見入ってしまった。
渚ちゃんは、驚く程可愛い。
今までこんなに可愛らしい女の子を見たことがあったか、思い返してしまう。
…ううん、きっとそれは子供らしさのそれでは無くて。
可愛いというより、この歳にしてすでに妖艶。
風に靡く細い髪も、影を落とす睫毛も、その向こうで淡く光る瞳も…
思わず息を飲むほどだ。
「お姉ちゃんは他所の人?」
「…えっ、あ、うん!そうだよ」
ハッとして返事をすると、渚ちゃんは少し不服そうに首を傾げた。
「…じゃあ違うんだ」
「違うって…何?」
「お姉ちゃんもそうかと思ってた」
「???」
私の顔をじっと見る渚ちゃん。
言葉の意味を理解できない私に、少しやきもきしてるように唇を尖らせる。
「人魚!」
「え……」
「お姉ちゃん、人魚じゃないの?」
「え!?ち、違うよ!」
話の筋がいまいちよく掴めない…
でも渚ちゃんは「そっか」と呟いたあと、納得したかのように頷いていた。
「あの…どうして人魚かと思ったの…?」
「ちょっとだけ…お母さんに似てるから」
「そ、そう…?」
「ちょっとだけ。でもあのお兄ちゃんのお嫁さんだから違うって、わかる」
「ぶっ」
ああ…こんな小さな子にまで…
ていうか、子供だからこその発想なのかもしれない。
(そうよね、狼狽えてる方が馬鹿みたいだわ……あれ?)
私はあることに気付いて、項垂れていた顔を上げた。
「な、渚ちゃん、いまお母さんに似ているから人魚だと思った、って言った?」
「うん、でも違うんでしょ?」
「そうだけど、待って、じゃあ渚ちゃんのお母さんは…」
そう言いかけた時。
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