いつつめ
└十四
今日は朝から快晴。
まだ朝なのに、寝不足の目には痛いくらいの日差しだ。
「すごい…海が光ってる…」
朝日を浴びた海面は、青というより黄金色。
繰り返す波にキラキラと輝いている。
『朝の海もまた表情が違っていいもんですね』
「はい…!すごく綺麗です!」
『…波と人魚岩の音で眠れなかったくせに?』
「う…っ!あ、明るくなれば大丈夫なんです!」
私がムキになって言い返せば、薬売りさんはクククっと笑う。
まぁ…彼の言う通り、昨夜は寝付くまでに時間が掛かった。
遠くに聞こえていた波の音は、一度気にしてしまうとまるで耳元で鳴っているようで。
それに加えて、あの泣き叫ぶような風音。
(気にしないようにしようとすればするほど気になっちゃうのって、どうしてなんだろう)
欠伸を噛み殺しながら目を擦っていると、またあの音が聞こえてくる。
ひいぃぃぃぁああああ……
昨日よりは慣れてきたものの…
やっぱり聞いていてあまり気持ちのいい音ではない。
風向きが変われば音がしなくなるだけまだマシだろうか。
「ん?」
海に近づくにつれ、威勢のいい声が微かに聞こえる。
『…朝の漁はもう終わったようですね』
薬売りさんが視線を追うと、波打ち際に舟を上げている男の人達がいた。
一番先頭で引き上げているのは船頭さんだろうか。
誰よりも大きな掛け声を掛けている。
すぐそばには小屋があり、外で火を焚いているようだ。
網を手早く片付けながら、やはり数人の女性がいた。
「あ…あの人…」
じっと見ていると、私は女性の中に人魚岩の由来を話してくれた人を見つけた。
「昨日、人魚岩の話を教えてくれた人です」
『ふぅん…』
薬売りさんにそう告げると、彼は顎に手を当てて女性を見つめる。
『…じゃあ夜に人魚岩に行ったのも彼女ですね?』
「はい…と言っても暗かったしもしかしたら…」
『私は結の見たものを信じますよ』
「へっ?」
『行ってみましょう』
言うが早いが、薬売りさんは浜辺に続く道をサクサク歩いていく。
「ま、待っ……あ!」
慌てて薬売りさんを追いかけようとした時。
ふと視界に入った人魚岩に、見覚えのある姿を捉えた。
「薬売りさん!」
『はい?』
「私あっちに行ってもいいですか?」
薬売りさんは私が指差す方と浜辺をチラリと見比べる。
そして小さく頷くと、
『いいですよ、人魚岩なら浜辺からも見られるようですし』
そう言って天秤さんをひとつ差し出した。
「わ!天秤さん!」
ちりん♪
ふわりとこちらに来た天秤さんを掌で受けると、天秤さんはくるりと回る。
相変わらずの可愛らしさに頬が緩んだ。
そんな私を見て薬売りさんは少し呆れ気味に肩を竦める。
『何かあったら大声を出しなさい』
「はい」
『ではまた後で』
薬売りさんは軽く手を上げると浜辺の方に歩いて行った。
(…少しは信用されるようになったのかな)
思った以上にあっさりと許可が出た事に驚き半分、嬉しさ半分。
それでも、まだ何があるかはわからない。
油断してたら、また薬売りさんに心配をかけかねないし…
「行こうか、天秤さん」
ちりりん♪
私は懐に天秤さんを忍ばせると、もう一度人魚岩の方を確認し足を進めた。
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