ふたりぼっち | ナノ




いつつめ
   └十



『…で、その女性たち』

「はい?」

『村出身の人とそうでない人、どのくらいの割合でした?』

「ええ?そんな全員の出身を聞いたわけじゃ…」



突拍子もない質問に目を丸くしてると、薬売りさんは撫でていた手でおでこをコツっと突く。



『聞かなくても見分け方ならあの若い漁師に教わったでしょう?』




「この村出身の女はみーんな派手顔、でも他所から来た女は地味顔!」



「あ……」


酔ったニヤケ顔を思い出して、眉間に皺を寄せた。



「…思い出しても失礼な言い方ですよね」

『あー…まぁ…わかりやすくていいですけどね』

「薬売りさんまで!」

『私に怒られても…じゃあ聞き方を変えます』



薬売りさんは憤る私を宥めるような口調から、スっと私を覗き込む。



『台所仕事をしてた中で、"妖しいほどに美しい女性"は何人くらいいましたか?』

「…っ」



一瞬、自分の頭の中を読まれたような気がしてゾクッとした。


片付けをしているとき…いや、宴会の最中からも思っていた。


若い漁師さんの言っていた通り、ここの女性は本当に綺麗だ。

美しいと一言で言っても、様々な美人がいるだろうけど…


ここの女性は、引き込まれそうな妖しさを持つ美しさだった。

艶っぽいとか、色っぽいとか、そういうことではない。


何というか、油断したら目を離せなくなるような…

そんな妖艶さを持った人達。



「確か…六人いた内の、四人はそんな雰囲気の人だった気がします」

『……そうですか』



薬売りさんは何かを得たようにニヤリと笑う。

そして少し考えるようにして続けた。



『いくつかおかしな点に気づきませんか?』

「え?」

『まず、村の人たちの年齢層』

「年齢層ですか?えと…割と若い人が多かったような…?」

『そう、若い人が大半で年配の人はほんの少し。中間層が圧倒的に少ない』

「あ…!そう言えば!」



宴会の席を思い出しても、薬売りさんの言う通りだ。


私と同じくらいの人達が大半で、私より明らかに年上の世代から絹江さんと母の間くらいと呼べる年齢の人はほとんどいなかった。

"村"と言うには暮らす人が若い気がする。



『あの若い漁師が言うには、身重で家にいた人も何人かいるようですが…それにしたって、若い人でしょうからね』

「身重…あ!台所にいた人の中にも少しお腹が大きい人がいました!それにこの村は子宝によく恵まれるって」

『…ふっ、なら次の疑問は尚更謎が深い』

「次の疑問って?」

『大人の人数の割には、子供も数が少ないと思いませんか?』

「!」



薬売りさんの一言に、目の前がパァっと明るくなった。

どことなく腑に落ちなかった出来事が、すとんと嵌った気分。



(…子宝、って程小さな子が多くいるようには思えなかった)



全員が船頭さんの家に来てなかったとしても…

他にも赤ちゃんがいても、そんなに同時期に生まれるだろうか?



(…偶然、ってこともあるかもしれないけど)



今日見た子供といえば、庭先で遊んでた子達。



(……それと渚ちゃんだ)



『…まぁ、この村に何か秘密があるのは確かでしょう』

「秘密…ですか?」

『さ、話はここまでにして…結も風呂に入って来なさい』

「あ、はい」

『きっと楽しい入浴になりますよ』

「え…っ!?」



薬売りさんはニッコリと笑って頷く。


これは…

たぶん楽しくないんだろう。


彼がこういう表情をする時は、大抵そうなのだ。



(でも…お風呂入りたいし)



せめて夜が更ける前にお風呂に入ろう。

そう心で呟きながら、私は支度をしてお風呂に向かった。



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