ふたりぼっち | ナノ




いつつめ
   └二



『結』

「薬売りさん!薬売りさんも一緒に足入れましょうよ!」

『私はいいですよ…それより着物の裾、上げすぎです。ほらもういいでしょう?』

「あ、わ、待ってください…!」


むすっと不機嫌顔の薬売りさんに手を引かれてヨタヨタと砂浜に戻れば。



ひぃぁぁああああ…



「!?」


辺りから、女の人の悲鳴のような泣き声のような音。

しかも後から追いかけるように、何度も何度も繰り返し聞こえる。



「く、薬売りさん…これ…」

『………』


何とも言えない不気味さに、思わず薬売りさんの腕にしがみついた。

薬売さんも訝しげな顔できょろきょろと見回している。


そしてある方向を見て、『ああ』と納得した声を出した。


『あれですよ、ほら』


そう言って指さした方には岩場が見える。

確かに音の出処はあの岩の方みたいだ。



『あそこ、岩と岩の間に隙間が空いているでしょう?』

「あ、本当だ」

『あの隙間を風が通る時に音がするようですよ』

「そう言えば、あちこちに岩の間の隙間がありますね」



薬売りさんの言う通り、風が吹くたびにあの泣き声のような音が響く。

いくつもの隙間を通るせいか、何人もの悲鳴を聞いているようで…



「…原因がわかっても、やっぱり不気味ですね」

『どういう加減なのか、あまり気持ちのいいものではないですね』



私の言葉に同意した、というように薬売りさんが肩を竦める。



『…でも土地の人には平気なようですね、例え子供でも』

「へ?」

『ほら、ちっとも怯えていない』



薬売りさんはニコリと笑うと岩場の方を再び指さした。


(一体何の話…)



「ええ!?あんな所に!?」



岩場の方。

少し海に迫り出した岩に、一人の小さな女の子がいる。


危険という程高く切り立った岩ではない。

でも、小さな子には充分危ないと思えた。



「く、薬売りさん!あの子!危ないですよ!」

『そうですか?海が地元の子なら飛び込みくらいやって遊ぶでしょう?』

「そうなんで…いや!やっぱり危ないです!」

『あ、結!』



首を傾げる薬売りさんを尻目に、岩場の方へ走り出そうとした時。



「っ!!!」


岩に立っていた女の子は、ぽーんと岩を飛び降りてしまった。


ひゅっと小さな音を立てて、一瞬息が止まる。

波の音と風の悲鳴と、自分の心臓の音が耳に痛い。


『あ、こら!結!』


すぐにハッと我に返って私は走り出した。



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